2025年第19回ショパン国際ピアノコンクール予備予選レビュー | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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2025年第19回ショパン国際ピアノコンクール予備予選全出場者演奏評
今年2025年、待ちに待った第19回ショパン国際ピアノコンクールが開催されます。 「ということは、もうあれから5年が経つのか、月日が流れるのは早いな~、なんか変だな」と思った皆さん、 安心して下さい。あれから5年ではなく4年です(笑)。 前回は新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で、開催が1年遅れて2021年でしたので、4年しか経っていません。 ショパンコンクールが毎回待ち遠しい僕にとっては(そしておそらく皆さんにとっても)、1年得した気分ですね。 今回の第19回ショパン国際ピアノコンクール、642人のピアニストが応募し、書類・ビデオ審査の結果、171人が選出され、予備予選出場権を獲得しました。 そのうち日本人は24人となっています。通過された選ばれしピアニストの健闘を祈りたいと思います。
予備予選の最終的な出場者のプログラムと日程も発表されています。 これを見ると、出場者は最終的に166人ですので、5人が辞退したということでしょうか。 このうち10月からの本番に進めるのは80人とされていますが、若干増える可能性もあります。 しかしいずれにしても約半数に絞られますので、この予備予選も厳しく熾烈な競争になります。 それぞれのピアニストがどんな素晴らしい演奏を聴かせてくれるか、楽しみですね。 出場者はアジア勢が大半を占めていて、国別内訳は、二重国籍を除いて中国65人(男性55人、女性10人)、日本(男性8人、女性13人(二重国籍を含めると15人))、 韓国21人(男性13人、女性8人)となっています。 また国籍は欧米系でもアジア系のピアニストが多いです。 男女比で見ると、全エントリー166人中、男性116人、女性50人と男性が圧倒的多数を占めており、お隣の中国、韓国の男女比も同様ですが、 何故か我が国では、逆に女性ピアニストが多数を占めているのが興味深いですね。 この辺りに我が国の特殊性が垣間見えますね。 日本人出場者に関しては、実績の点から特に注目されるのは、亀井 聖矢さん(ロン=ティボー優勝)、中川 優芽花さん(クララ・ハスキル優勝)、中島 結里愛さん(15歳、ショパコンin ASIAプロフェッショナル部門で銀賞)あたりでしょうか。皆さんは、注目しているピアニストはいるでしょうか。 国内外も含めて、再挑戦組も多いですね。4年間でどのように変化したか、楽しみなピアニストも多いです。 国外のピアニストについても前評判に関する情報はほとんど仕入れていませんが、いずれにしても予備予選の演奏を聴いて判断することになりますし、 むしろ先入観を持たないで聴いた方がより客観的に判断できるのではないかと思っています。 2025/04/14 管理人の現在の状況と今回の予備予選レビューの予定 前回2021年第18回ショパンコンクール(2021年10月)の時点では、地域の診療所の勤務医をしていましたが、 現在は地域の中規模病院の勤務医(内科)をやっています。 平日の帰宅時間は平均すると午後6時30分から午後7時頃ですので、 前半セッション(日本時間午後5時~午後9時)の前半はリアルタイムで聴くことができないことになります。 勤務医である以上、緊急・臨時の呼び出しの可能性は常にありますが、 現在の勤務先はほぼ完全当直制のため、呼び出しの頻度は低いです。 しかし当直の頻度は多く、平均週1回です。 今回の予備予選期間中の当直予定は、4月23日(水)(何と初日!残念!)と5月3日(土)です。 残念ながらこの2日もリアルタイムで演奏を聴けないことが確定しています。 このような、どうやってもリアルタイムで聴くことができない出場者の演奏は、 予備予選開催期間中の空き時間または予備予選終了後に聴いて、レビューを記載したいと思います。 幸い、この期間中、2度の週末を挟みますし、我が国はゴールデンウィークで休日も多いので、 比較的キャッチアップしやすいと思われます。 全出場者166人分の演奏の感想・コメント、大変ですが、 楽しみにしている方もいらっしゃるでしょうし、 出場者1人1人が全身全霊を捧げた演奏は、ショパンマニアの僕にとってかけがえのない貴重なものですので、 1音も残さずに聞き通したいと思います。 その上で、例によって今回も、注目したいピアニストを抽出したいと思います。 2025/04/17
YouTube動画配信URL
YouTube動画配信(4月23日前半10時~14時(日本時間:4月23日(日)午後5時~9時)) 繰り返しになってしまいますが、今回は初日の4月23日には当ページを更新することができない状況で、完全に出遅れることが決定してしまいました。またその後もリアルタイムで更新できる日にちや時間帯は非常に限られています。期待して下さっている皆さんには大変申し訳ないと思いますが、後日、配信済の動画を視聴するなどして、なるべくキャッチアップしておきたいと思います。 2025/04/22
審査員
管理人的ランク・各コンテスタントの演奏に対する感想・コメント
各コンテスタントの演奏を、管理人的な好みに合うかどうか、好みに合わなくてもレベルが高いかどうかで、A,B,C,D,E,?でランク付けします。
A:非常に素晴らしい・感動した 但し言うまでもなく音楽の好みは人それぞれですし、この評価はあくまで管理人の個人的な好みによる主観的評価であることを 再度、付け加えておきます。予想というよりも、管理人の好みに合うかどうかが判断基準であるため、 誰が聴いても文句なしという抜群に上手い人を除けば、結果は外れることが多いだろうと予想されます。 ちなみに何度も書いていますが、管理人の音楽的志向は保守的で、美しくオーソドックスで完成度の高い演奏が好みです。 それと音色のウエイトがかなり高いです(好みでない音色のピアニストの演奏を聴き続けるのはかなりストレスフルですよね)。 テクニックに関しては粒が揃った軽妙で筋の良い演奏が好みで、ミスタッチは正確に拾うことができますが、 高い技術を持つ人の偶発的なミスに対しては寛容です。一方、明らかに技術的に弾けていない演奏や、 そのためにミスを乱発する演奏に対してはかなり辛い評価をする傾向があります。
4月23日前半10時~14時(日本時間:4月23日(水)午後5時~9時)
B 1. Kambara Masaharu(神原 雅治、日本) マズルカOp.59-1:正統派でありながらも、ダイナミズムの幅、リズムの面白さやルバートや端切れも追及し創意工夫に満ちた素敵なマズルカ。 エチュードOp.25-4:端切れの良い演奏。最後の方で少し乱れたのが惜しまれますが、減点なしとしたいです。 エチュードOp.10-4:技術的レベルが高くダイナミックで良い演奏。最後の方で少し乱れましたが、緊張のためだと思います。 ノクターンOp.27-2:はっきりとした美しい音色で朗々と歌わせていて好感が持てましたが、 ところどころ惜しい音抜けやドキッとするようなミスタッチがあり、もったいないと思いました。 スケルツォOp.31:旋律の歌わせ方も自然でダイナミックでスケールの大きい演奏。 全体的に「発音の良い」演奏で、芯のあるきれいな音を出す正統派だと思いました。 ダイナミズムは申し分ないのですが、もっと弱音側の幅が増えると演奏に深みが増すと思いました。 もったいないミスタッチがありましたが、トップバッターというハンデを考えると、 このくらいは大目に見てほしいと思います。通過に期待します。
B 2. Kamei Masaya(亀井 聖矢、日本) 椅子に座ると間髪入れずにマズルカOp.59-3開始。 この作品のオーソドックスを意識しながらも、テンポをかなり大きく動かしギリギリの線を追及した かなり自己主張の強い斬新な演奏。好みが分かれるかも。 エチュードOp.25-11:ややミスタッチは散見されましたが、技術的に完璧に弾くという次元を超えて、 テンポを動かして、この作品に宿る詩情を追及しようという意欲が感じられる演奏でした。 エチュードOp.10-2:技術的に完璧、ミスタッチほぼゼロ。主部の再現部では右手の内声部を強調するなど、 斬新な試みもあり、技術的にまだまだ余裕がありそうで、さらに高い次元を目指そうという意欲が感じられました。 ノクターンOp.27-1:弱音も美しく流れも自然ですが、その中で様々な試みがなされていました。 スケルツォOp.54:主部は技術的に高度でミスタッチもほとんどなく、さすがです。 嬰ハ短調で始まる中間部はやや遅めのテンポで、 もっとあっさりした弾き方が好みの人も多そうで、 好みが分かれそうです。 全体的に従来の解釈に囚われない個性や斬新さを追及しようという姿勢が感じられました。 万人受けする演奏ではないかもしませんが、こうした試みは高く評価されるべきです。 このような演奏から次世代の新標準が生まれてくることが往々にしてあるからです。 表現の幅も引き出しも多そうで、もっと聴きたいと思わせる演奏でした。
C 3. Khandohi Uladzislau(ベラルーシ) ノクターンOp.48-1:出だしの旋律部は神々しい雰囲気が出ていて素晴らしい。 中間部後半からクライマックスにかけてはかなりテンポを動かしていて即興的で良い。 エチュードOp.10-1:速いテンポで颯爽とした演奏。若干不明瞭な部分はありますがミスはほとんどなし。 エチュードOp.25-5:技術的には安定。中間部の美しい旋律は大きくルバートをかけて即興的に歌わせていて 良い演奏だと思いました。 マズルカOp.56-1:デュナーミク、アゴーギクの幅を大きく取った演奏。 この作品の自由で夢想的な雰囲気を引き出していました。 スケルツォOp.54:かなりテンポを大きく動かして感興豊かで自由度の高い演奏。 ただあまり好きな演奏ではないですし、聴いていてちょっと疲れるかも・・・
A 4. Khrikuli David(ジョージア) マズルカOp.56-3:テンポと音量がしっかりコントロールされ、密度の高い音楽が紡ぎ出されていく、 得難い素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-10:ダイナミックで音が濁らずクリアな演奏。中間部のオクターブの旋律も 適度に即興的でありながら、よくコントロールされていて素晴らしい。 エチュードOp.25-11:ダイナミックでパワフルな木枯らし。技術的にも素晴らしい。 ノクターンOp.48-2:この曲にしては速めのテンポ、フレージングは抑制が効いていて 非常に聴きやすい。すっきりした流れの中に漂う哀愁。これは良いですね。 スケルツォOp.54:技術的にも洗練され、音の粒立ちも良くて歯切れが良い。 音楽的に密度が濃く完成度も高い素晴らしい演奏。 体格がよく手も大きいですが、力任せな演奏ではなく、むしろ逆に細部まで丁寧に演奏し、 ショパンの音楽に誠実に向き合う正統派。 ダイナミックでスケールも大きい。この人は大器かもしれません。次も聴きたい人です。
B~C 6. Kim Hayoung(韓国) ノクターンOp.55-2:緊張のためか、やや固いかな、というのが第一印象。 すっきりした音色で比較的インテンポのノクターン。 エチュードOp.10-10:各声部の音量のバランスが絶妙、テンポルバートも非常に自然で ロマンティックなこの作品の魅力を引き出していて素晴らしいです。 エチュードOp.10-1:ダイナミックで技術的にも正確で素晴らしい演奏。偶発的なミスはノーカウントとしたいです。 マズルカOp.59-1:音楽的には中庸で基本的には良い演奏ですが、拍感や音価がやや不安定な気が・・・ スケルツォOp.39:主部はダイナミックで鋭い。高音から駆け下りてくるキラキラとした音型は きれいに粒が揃う。コーダは迫力十分、圧巻。 テクニックはあるが音楽は・・・というタイプでしょうか。 これだけテクニックがありながら落とされることがあるのか、気になります。
B 7. Kim Jeonghwan(ドイツ) マズルカOp.30-3:自信をもって1つ1つの音を刻印していく。明晰で曖昧さのない立派なマズルカ。 エチュードOp.10-7:右手の動きは完璧。左手のミスはなかったことに・・・ エチュードOp.25-11:技術的に非常に高いレベル。ただこの人、跳躍で音を外しやすいですね。 スケルツォOp.39:ダイナミックで技術的にも正確な良い演奏。コーダも圧巻。 ただ強奏で音色が攻撃的になるきらいがあり、好みが分かれそうです。 ノクターンOp.62-2:表現は細部に至るまでよく考えられていますが、やや人工的な美しさという印象。 この曲は、さりげなく自然で深く温かい演奏の方が好きです。 この人はタイプ的にこのノクターンは合わない気がするのですが・・・ ここは通過でしょうけど、この人はショパンよりも超絶技巧系の方が相性が良さそうです。
4月23日後半17時~21時(日本時間:4月24日(木)午前0時~4時)
B~C 8. Kim Jiin(韓国) ノクターンOp.48-2:伸びのある美音で自然な抑揚を付けた良い演奏。 マズルカOp.59-3:良い演奏だと思いますが、緊張のためか、やや弾き急いでいる印象。 エチュードOp.10-8:軽快で粒が揃っていてよい演奏。 エチュードOp.25-6:惜しいミスがありましたが、技術的にはかなり高いレベルの演奏でした。 スケルツォOp.54:技術的にはもちろんですが、特に中間部の旋律の歌わせ方に惹かれました。 緊張のためかミスタッチは多めでしたが基本的に技術は高度で、何よりノクターンやスケルツォの中間部のような 緩徐部の表現が秀逸と思いました。
B 9. Kim Junhyung(韓国) ノクターン枠でエチュードOp.25-7:細部に細かいニュアンスと変化をつけつつも、 フレージングの「見通し」が良い。 エチュードOp.10-1:余裕がありそうに見えましたが、大きく引っ掛けてしまったところがあり、惜しいです。 エチュードOp.25-10:強奏で音が濁らない。中間部の旋律のフレージングも秀逸。 マズルカOp.33-4:歯切れがよくリズミカルで個性的な演奏。 スケルツォOp.39:ダイナミックで細かいパッセージも粒が揃っていました。
B 10. Kim Sunah(韓国) ノクターンOp.27-1:奇をてらったところのない非常に自然で美しい演奏。中間部のテンポは速めで劇的。 マズルカOp.30-3:テンポ、抑揚ともにこの曲の標準に近い演奏。 エチュードOp.10-4:かなり速いテンポの「攻めた」演奏。最後にわずかな引っ掛けはあったが このテンポでこの完成度は見事。 エチュードOp.25-5:オーソドックスな演奏。 スケルツォOp.20:スケルツォの細かく速いパッセージは粒立ちが良い。中間部は大きく抑揚を付けながらも 流れは自然。
B 11. Kita Sakurako(北 桜子、日本) ノクターン枠でエチュードOp.10-3:自然で流れの良いオーソドックスな良い演奏。 エチュードOp.25-11:細かい動きも正確、技術的に破綻している部分はない、非常に完成度が高い、素晴らしい演奏。 エチュードOp.10-10:技術的に高度に完成されている。この作品の本来の美しさを自然に引き出している。 マズルカOp.24-4:細部の表現はよく考えられ練られているが、それが自然な流れの中に収まっている。 スケルツォOp.31:全体的にオーソドックスな演奏ですが、細かいパッセージの粒の揃い方が秀逸です。 最後大きく乱れてしまったのが本当に惜しい!これは大目に見てあげてほしいですね。
C 12. Kliuchereva Elizaveta(ドイツ) ノクターンOp.62-1:細部を適度にデフォルメしながら全体として自然な流れの美しい演奏。 エチュードOp.10-4:速く弾こうとしすぎて粒ぞろいや安定感が損なわれているのがもったいないです。 エチュードOp.25-6:概ね良いのですが音が不明瞭で所々テンポが不安定になるのが気になりました。
B~C 13. Kłeczeka Antoni(アメリカ/ポーランド) ノクターンOp.9-3:細部を丁寧に弾きながら旋律の流れも良い。 丸みを帯びたまろやかな音色だが、ダンパーペダルが控えめで、その分、音がクリア。 エチュードOp.25-10:強奏でも音が濁らない。中間部のオクターブの旋律は 響きのバランスも良く流れが自然。 エチュードOp.10-8:音の粒も揃い安定感のある演奏。最後はテンポを落としてフィニッシュ。 マズルカOp.50-3:この曲の標準的な演奏だと思いますが、何でもないところで音抜けや 引っ掛けが結構多く、もったいないと思いました。 スケルツォOp.39:ダイナミックでスケールの大きい良い演奏だと思いました。 全体的にあまり惹かれるものはなかったのですが、ポーランド人ということで、 多少有利になるのでしょうか。
B~C 14. Krstic Pavle(ブルガリア/セルビア) ノクターンOp.48-1:非常にすっきりとした流れ。後半に向けての盛り上がりも良いと思います。 エチュードOp.10-1:最後まで破綻した箇所がなく素晴らしい演奏でした。偶発的なミスは ノーカウントにしたいです。 エチュードOp.10-10:この曲の魅力を自然に引き出した概ね良い演奏。引っ掛けや音の不揃いが もったいないです。 マズルカOp.33-4:この曲の標準的な演奏で、適度に即興性があり、よいと思いました。 スケルツォOp.31:全体として良い演奏だと思いましたが、疲れのためか、 やや粗が多くなってきたのが惜しいです。
4月24日前半10時~14時(日本時間:4月24日(木)午後5時~9時)
B 1. Kyomasu Shushi(京増 修史、日本) 前回からの再挑戦。 ノクターンOp.62-2:艶と伸びのある音色で心を込めて1音1音丁寧に紡ぎ出し切々と語りかけるような演奏。 エチュードOp.25-11:偶発的なミスタッチはわずかにありますが、全く破綻のない完成度の高い オーソドックスな演奏でした。 エチュードOp.10-10:美音を基調としながら適度なルバートと抑揚をつけた美しい演奏。 全体的に、もっと右手外声部の音量が欲しい気がしますが・・・。 マズルカOp.59-3:奇をてらったところのない、けれんみのないひたすら美しいマズルカ。これはありだと思います。 スケルツォOp.54:一転してダイナミックな演奏。この曲はもっと軽快な演奏が好きですが、ミスタッチもほとんどなく 完成度が高いのは特筆すべきです。
D 2. Laothitipong Ariya(タイ) マズルカOp.30-3:弱音で音色が曇る。緊張のためか音の引っ掛けが多い。やや安定感に欠ける演奏。 エチュードOp.10-4:途中までは良い調子でしたが、中間部の最後の方で大きく崩れてしまいました。 コーダで大きく乱れて拍が抜け落ちてしまいました。 エチュードOp.25-5:この曲も主部で大きく乱れてしまいました。中間部の旋律の歌わせ方は良いと思いました。 最後のホ長調の上昇アルペジオを弾く指を見ると震えていました。ものすごい緊張が伝わってきます。 ノクターンOp.62-1:基本、美しいのですが、歌わせ方がやや粘っこいと思いました。 この曲はもっとあっさりしたスマートな演奏が好みの人も多いのではないでしょうか。 スケルツォOp.31:オーソドックスで良い演奏ですが、ミスタッチも多く決め手に欠ける印象です。 致命的なミスタッチによる大崩れが多数ありましたが、かなり緊張していたのだと思います。 今回の予備予選のレベルの高さを考えると、通過は難しそうです。
B~C 3. Lee Gichang(韓国) エチュードOp.10-12:技術的レベルは高くダイナミックで完成度の高い演奏。 エチュードOp.10-10:音楽性豊かな演奏ですが、右手の外声部の音量が少し足りないような気がしました。 ノクターンOp.48-1:オーソドックスな演奏。和音の強奏も音量は控えめ。 マズルカOp.24-4:感興豊かな演奏ですが、やや突っ走るところも。 スケルツォOp.31:第2主題の旋律部はメロディアスで美しい。難所も全く破綻がない。模範的な演奏。 全体的にかなりレベルが高い演奏ですが、やや強引なところがあり、それをどう判断するかで結果が変わりそうです。
B~C 4. Lee Kwanwook(韓国) マズルカOp.59-1:基本的には落ち着いた良い演奏ですが、滑らかさに欠け、やや流れが悪く固い演奏と感じました。 緊張のためだと思います。 エチュードOp.10-10:伸びやかで自然で技術的にもレベルが高い演奏でした。 エチュードOp.25-11:やや不明瞭で不揃いなところはありますが、ミスタッチはほとんどなく良い演奏だと思いました。 ノクターンOp.27-2:美音で旋律を美しく歌わせた良い演奏ですが、テンポの軸がややぶれるように感じました。 スケルツォOp.31:オーソドックスで美しく完成度の高い演奏。 この人もかなりレベルが高いです。 こうなると、こういう演奏をする人の誰を通過させ、誰を落選させるか、という問題になり、悩ましいですね。 今回の予備予選はレベルが高そうです。
C 5. Li Bowen(中国) ノクターンOp.62-1:やや曇った音色だが箱鳴りのする深い音色。トリルの連続部でテンポがいきなり速くなるのは意図的なのか、癖なのか。これだけの技術があれば修正できそうなので意図的なのだろうと思う。普通の演奏。 エチュードOp.10-8:やや引っ掛けや不揃いはあるが及第点か。テンポは速すぎず遅すぎず中庸。 エチュードOp.10-10:基本に忠実な演奏だが外声部が際立たず輪郭に乏しい感じ。 マズルカOp.30-4:抑揚があり自然な音楽性。 スケルツォOp.20:主部は技術的にレベルが高い。中間部は自然なルバート・抑揚をつけてしっとりと歌わせているが、 やや粘っこいと感じる向きもあるかもしれない。これは好みの問題か。 全体的に決め手にかける印象。通過は難しいか。
B 6. Li Luwangzi(中国) ノクターンOp.48-1:深い音色、ダイナミックでスケールの大きい演奏。 エチュードOp.10-5:粒立ちの良い音で軽妙で良い演奏。主部の出だしの左手の和音で音違いがあるが、 そういう版があるのか? エチュードOp.25-4:ミスタッチしやすい部分もノーミス、抑揚、メリハリの利いた良い演奏。 マズルカOp.59-1:哀愁の旋律・ハーモニーを節度をもって引き出しそうという意図は感じられるが、 途中、突っ走るところもあり、もう少し落ち着きが欲しい気が。 スケルツォOp.31:技術的に高いレベルで抑揚も自然。第2主題が2回目に出現するところでは、 オクターブの下の音を強調する工夫も(これはその前にこの曲を弾いた韓国人もやっているので、 最近の流行りなのでしょうか?(不勉強ですみません)) 適度に華やかで良い演奏だと思います。 全体的にダイナミックな演奏ですが、「速さ」や「強さ」で勝負しようという演奏にも感じられ、深みややや欠ける気がします。
管理人コメント
4月24日後半17時~21時(日本時間:4月25日(金)午前0時~4時)
B 7. Li Tianyou(中国) エチュードOp.10-8:軽妙なタッチで玉を転がすような粒ぞろいの音によるエチュード。 エチュードOp.25-4:軽快で洒脱な雰囲気の素敵なエチュード。 マズルカOp.59-1:オーソドックスで自然な演奏。強い自己主張はないが、とにかく筋が良い。 ノクターンOp.62-2:落ち着いたテンポでしっとりと謳わせたノクターン、安定していてよい演奏。 スケルツォOp.31:オーソドックスな演奏ですが、強奏でも音が割れず、1つ1つの音が明瞭に聴こえる。 この人の音の粒立ちの良さと筋の良さは天性のものだと思います。 やや軽くて線が細い感じも否めませんが、個人的にこういう演奏は好きな部類です。
B 8. Li Xiaoxuan(中国) 前回からの再挑戦。前回の演奏順は優勝者Bruce Liuの直前でしたね。背もたれのある椅子を使用していたのが 印象的でしたが、あの頃からだいぶ太ったでしょうか。 エチュードは最難曲を選択するあたり、意欲的なプログラミングですね。 マズルカOp.33-4:オーソドックスでありながら適度に即興性があり好ましい演奏だと思いました。 エチュードOp.25-6:不明瞭なところはありますが、概ね良い演奏、及第点ではあると思います。 エチュードOp.10-1:惜しいミスや引っ掛けはわずかにありましたが、良い演奏でした。 ノクターンOp.48-1:ダイナミックで技巧的な演奏。 スケルツォOp.39:かなり力任せの演奏を予想していましたが、予想に反し、落ち着いた足取りで 弾き進めていく王道の演奏でした。 ただ全体としてこの人が何をやりたいのか、今一つ見えてこないという点で、決め手に欠ける印象でした。
B~C 9. Li Xinjie(中国) ノクターンOp.55-2:伸びやかな美音で振幅を大きく取ったノクターン。 エチュードOp.10-1:テンポも速くダイナミックで技術レベルは高いですが、ところどころ惜しい引っ掛けがありました。 エチュードOp.25-4:かなりテンポの小気味よい演奏。 マズルカOp.50-1:リズミカルで即興性に満ちた良い演奏。 スケルツォOp.54:細かく速い動きの連続する部分でも感興の赴くままに即興的に演奏していて、 技術の高さがよく分かりますが、やや勢い余って破綻する部分もあり、若いな、と思いました。 面白い演奏ではありますが、個人的にはあまり好きなタイプの演奏ではないです。
A 10. Li Zhexiang(中国) マズルカOp.50-3:遅めのテンポで1つ1つの音に心を込めているのが伝わる、優しく柔らかい演奏でした。 ノクターンOp.48-1:他の奏者と違い暖色系のトーンで柔らかい感触の出だし。 最後のクライマックスでは強奏でも鍵盤を叩かない。「品」がある素晴らしい演奏。 スケルツォOp.39:オクターブ連続部はペダル控えめ、非常に丁寧で純度が高い。 コーダの動きはマルカートで全ての音がきれいに鳴っていて完璧な演奏。超一流ピアニストのよう。 あまりに素晴らしい演奏に、プログラムの途中だというのに、会場から拍手が! 本人、椅子から立ち上がり聴衆に向かって一礼。 エチュードOp.25-10:オクターブの連続でも全く濁らない、純度の高い響きが保たれる。 中間部のオクターブの旋律も静かな中にやるせない情緒も表出されており聴かせる。 間髪入れずエチュードOp.25-11:これほど技術的精度が高く音楽的にも純度が高い木枯らしは なかなか聴けないです。
B~C 11. Lim Juhee(韓国) マズルカOp.59-1:ちょっと固いかな、と思わせる演奏でしたが、緊張のためだと思います。概ね良い演奏です。 エチュードOp.10-8:テンポは速めで音の粒は揃い、爽快で力強い素晴らしい演奏。 エチュードOp.10-7:これも速めのテンポでありながら、3度と6度の1指の交代連打の動きはきれい。 右手第5指の旋律の音がやや弱いのが惜しいです。 ノクターン枠でエチュードOp.10-3:適切なルバートで旋律も十分歌っている、中間部の最後の方で 止まりそうなくらいテンポを落とすのは意図的なのだと思いますが気になりました。 スケルツォOp.54:高い技術と熱いパッションの華やかで情熱的なスケルツォ。
A~B 12. Lin Hao-Wei(台湾) 前回からの再挑戦(前回は予備予選落ち(演奏は未聴)。 ノクターンOp.27-2:瑞々しい美音。けれんみのない純粋無垢なノクターン。 マズルカOp.59-1:瑞々しい美音、アーティキュレーションが自然で最上の意味で模範的。 エチュードOp.10-8:玉を転がすような粒ぞろいの美音、高い技術、完成度。 エチュードOp.10-11:アルペジオの連続の最高音のメロディーラインがきれいにつながり、 ロマンティックな「歌」として聴こえる。素晴らしい演奏。 スケルツォOp.54:非常にオーソドックスで完成度が高い。音色が美しく技術レベルが高いため、 それだけで魅力的な演奏になる、これはその典型例。 奇をてらわず常に自然体。純粋無垢。こういう演奏、個人的にはすごく好きです。 前回は予備予選落ちだったそうですが、この人の演奏を聴くのは今回これが初めてです。
4月25日前半10時~14時(日本時間:4月25日(金)午後5時~9時)
C 1. Liu Yanan(中国) エチュードOp.10-1:惜しいミスタッチはあるが、表現の振幅が大きくスケールの大きい好ましい演奏。 エチュードOp.25-4:この曲にしてはややソフトなタッチ。やや惜しい引っ掛けが複数。 ノクターンOp.48-1:主部の旋律の節回しはやや恣意的に感じられましたが、好みの問題かも。 オーソドックスな良い演奏だとは思います。 マズルカOp.33-4:基本的には良い演奏ですが、テンポの軸のぶれと音の扱いがやや雑になる部分が 気になりました。 スケルツォOp.31:技術的にもよくオーソドックスな演奏ですが、粗くなる部分が散見されました。 全体的にあまり好きな演奏ではありませんでした。
B 2. Liu Ziyu(中国) ノクターンOp.48-1:主部の旋律部には細かい節回しを入れていますが、それが自然に収まっています。 クライマックスへの盛り上げは力をセーブ。「品」の良い演奏。 マズルカOp.33-4:リズム、節回しはよく考えられていて良い演奏。 エチュードOp.10-1:ダイナミックで美しく完成度の高い演奏。わずかな引っ掛けはありますが、 目立ったミスタッチなく最後まで。素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-5:中間部はロマンティックな旋律が美しく浮き出ていて良いと思いました。 スケルツォOp.31:ロマンティックでダイナミックで良い演奏ですが、 強奏で音色が鋭くアグレッシブになるのが気になりました。
B 3. Luo Jiaqing(中国) エチュードOp.10-8:技術的に完成度が高く音楽的にもオーソドックスな良い演奏。 エチュードOp.10-7:速めのテンポですが、1指の連打は完璧。右の第5指の外声部が 少し埋もれ気味と思いました。 ノクターンOp.48-2:伸びやかな美音、控えめで自然なルバートをかけて 短音の旋律が美しい哀歌を歌う・・・これはこの曲の最も良い演奏の1つ。 この曲はこぶしをきかせるなどしてむやみやたらにこねくり回さない方が 美しくスマートに聴こえると個人的には思います。 マズルカOp.33-4:一転してこの曲は付点音符や装飾音の付近に細かい節回しを入れていて これも良いと思いました。 スケルツォOp.31:旋律はロマンティックですが、基本ダイナミックで迫力を重視した 華やかなスケルツォ。
4. Luo Zheng(中国)
C 5. Lyu Tianyao(中国) エチュードOp.10-8:ソフトなタッチで軽妙でオーソドックスな演奏。 エチュードOp.25-5:主部はやや明瞭さに欠けますが、中間部の旋律の歌わせ方は良いと思いました。 ノクターンOp.62-1:落ち着いてしっとりと歌わせていてよい演奏だと思いました。 ソフトな音色ですが、この曲はもっと冴えた音色の演奏が好みです。 マズルカOp.59-3:オーソドックスですが、全体的に小ぢんまりとした印象。 スケルツォOp.54:技術的にもレベルが高く安心して聴いていられる演奏だが、この曲にはもう少し歯切れの良さを 求めたい気も・・・。 音色の明瞭さや冴えに欠けるのは女性ピアニストのハンデかもしれません。
C 6. Lyu Zhiqian(中国) マズルカOp.33-4:概ね良い演奏だと思いましたが、装飾音やプラルトリラーの粒が粗くなることがあり、 全体的に散漫な印象と感じました。最後の強奏での終結にはびっくりしました。 エチュードOp.10-1:ダイナミックでスケールの大きい演奏。やや惜しいミスタッチあり。 エチュードOp.10-10:この曲にしてはダイナミックでやや一本調子。 この曲はルバートをきかせた詩情豊かな演奏が好きなので、好みにはやや合いませんでした。 ノクターンOp.48-1:ダイナミックで情熱的な演奏。強奏でややうるさく聴こえるのが難点か。 スケルツォOp.31:ダイナミックで迫力がありスケールの大きい演奏。 ただ全体として好きな演奏ではありませんでした。
C 7. Łozowska Julia(ポーランド) ノクターン枠でエチュードOp.25-7:陰鬱な情緒を歌い上げていてよい演奏だと思いました。 エチュードOp.25-5:主部ややや重い、中間部は即興性豊かでダイナミック。 エチュードOp.25-11:概ね良いと思いましたが、技術的に余裕がなく一生懸命さが伝わってくる演奏。 マズルカOp.30-4:自然でオーソドックスな演奏。 スケルツォOp.39:ダイナミックで即興性豊かな演奏。
4月25日後半17時~21時(日本時間:4月26日(土)午前0時~4時)
B 8. Ma Tiankun(中国) ノクターンOp.48-1:主部の旋律はすっきりした深い音色で流れが良い。 中間部後半から主部の再現の和音連続は迫力があり心に迫る。 エチュードOp.10-8:弾き始めに大きなミスが・・・輝かしい音によるダイナミックで迫力のある演奏。 エチュードOp.10-10:ダイナミックで「元気のよい」演奏。この曲のロマンティックな要素も 十分引き出している。 マズルカOp.33-4:オーソドックスだがややダイナミックで迫力重視の演奏。 スケルツォOp.31:迫力のある超絶技巧的演奏。これはこれで非常に立派。 中間部最後の同じ音型の繰り返しが1回抜けてしまいましたが、減点なしとしたいです。 こういうダイナミズムは「ショパンらしくない」という人も多いと思いますが、 かなりの腕達者であることは間違いないですし、このような演奏は何より「面白い」です。 この人が通るか落ちるかで、審査員の傾向を推測することができそうです。 個人的には通ってほしいです。 それにしても中国はこういうダイナミックなピアニストを次々に送り込んできますね。 日本人にはいないタイプですね。
C 9. Maekawa Megumi(前川 愛実、日本) マズルカOp.59-1:強めの音、速めのテンポで弾き進めていくマズルカ。 でもこのマズルカにはもっと哀愁、陰影を求めたい気も・・・ エチュードOp.25-11:速いテンポですが技術的に高度で迫力のある演奏でした。 エチュードOp.10-10:1つ1つの音が独立して明確な輪郭をもって立ち上がる、音楽的にも自然な流れで 良い演奏でした。 ノクターンOp.55-2:比較的強めの音を基調とした、「発音の良い」演奏ですが、 やや陰影に乏しい感じで、テンポも速めで一本調子に聴こえてしまいました。 スケルツォOp.54:技術的には高度ですが、この曲にはもっと軽妙さや陰影がほしいと個人的には思いました。 全体的に強めの音で弾き急いでいるように聴こえました。 もう少し弱音側の幅や陰影を求めたいと思いますが、わがままでしょうか。
C~D 10. Magamedova Anastasiya(アメリカ/タジキスタン) スケルツォOp.20:主部の難しいパッセージも即興的な変化を付けて演奏、迫力も十分だが技術的には粗さが 目立ちました。 ノクターンOp.55-2:右手と左手の音価が合わず安心して聴けない演奏になってしまいました・・・ エチュードOp.25-11:速いテンポの「攻めた」演奏ですが、技術的には粗いです・・・
C 11. Mamadaliev Iskandarkhon(ウズベキスタン) マズルカOp.33-4:この作品のオーソドックスを踏まえた上で適度な即興性と工夫のあとが見られる演奏。 エチュードOp.10-1:ところどころ惜しいミスタッチがありますが概ね良い演奏だと思いました。 エチュードOp.25-4:オーソドックスで良い演奏。 ノクターンOp.48-2:この曲にしては「動き」が多い演奏。この主旋律のシンプルな美しさを そのままの形で堪能したい人には合わないかも・・・聴き手を選ぶ演奏とも言えるでしょうか。 スケルツォOp.31:荒削りながらものすごい迫力!圧巻の熱演。 ただ個人的にはあまり好きな演奏ではないです・・・
A~B 12. Mao Xuanyi(中国)
Op.10-2の上手さに衝撃を受けました。これは今回も通過で間違いなさそうです。
C 13. Martin Gregory(アメリカ) ノクターン枠でエチュードOp.10-6:この曲の憂鬱な雰囲気を十分に引き出した自然な演奏。 エチュードOp.10-5:やや粗い部分はあるが概ね良い演奏だと思いました。 エチュードOp.25-4:ややミスが多く決め手に欠ける印象。 マズルカOp.41-1:この曲の憂鬱さを自然に引き出した演奏。 スケルツォOp.39:オーソドックスですが技術的にやや粗いと思いました。 今回の出場者のレベルの高さを考えると通過は難しそうです。
B~C 14. Micieli Ruben(イタリア) エチュードOp.10-12:技術的には高度、ダイナミックでありながら弱音部分の扱いが丁寧で彫が深い。 エチュードOp.25-5:オーソドックスで良い演奏。 マズルカOp.24-4:軽快で洒脱なリズム。やや軽いが強奏では十分にダイナミック。 スケルツォOp.39:ダイナミックで良い演奏。技術の精度は高いがところどころ惜しいミスが・・・。 ノクターンOp.27-2:滴るような美音と自然な音楽性。
4月26日前半10時~14時(日本時間:4月26日(土)午後5時~9時)
C 1. Milstein Nathalia(フランス) ノクターンOp.27-1:オーソドックスで美しい演奏。 エチュードOp.10-5:歯切れがよさそうだが音の粒ぞろいは今一つ。 エチュードOp.25-10:適度にダイナミック、強奏でも音はあまり濁らない。 マズルカOp.50-3:オーソドックスな演奏だが、 スケルツォOp.54:技術的には一応問題なく弾けていますが、粒ぞろい、完成度は今一つと思いました。
C~D 2. Moliszewska Maria(ポーランド) マズルカOp.59-3:情熱的で良い演奏だと思いましたが、最後の方で脱線しかけてヒヤッとしました。 エチュードOp.10-8:これはさすがにミスと引っ掛けが多いのではないかと・・・緊張のせいだと思いますが。 エチュードOp.25-5:主部はリズムがやや不安定・・・中間部は美しく流れていてよい演奏だと思いました。 ノクターンOp.62-1:美しくオーソドックスですが、音の粒立ちがはっきりせず、決め手に欠ける印象。 スケルツォOp.31:ダイナミックでオーソドックスな良い演奏だと思いましたが、技術的にはやや不安定でした。
B 3. Nakagawa Yumeka(中川 優芽花、日本) ノクターンOp.62-1:落ち着いたテンポでしっとりと歌わせた演奏。トリルも粒が揃っていました。 エチュードOp.10-8:音の粒立ちもよく技術的にも高度。抑揚も自然で良い演奏だと思いました。 エチュードOp.10-10:安定した技術でこの曲の魅力を自然に引き出した演奏だと思いました。 マズルカOp.30-4:リズムが安定して、プラルトリラーも粒が揃い、完成度が高いマズルカでした。 スケルツォOp.39:ダイナミックで完成度の高い良い演奏でした。
B~C 4. Nakashima Yulia(中島 結里愛、日本/韓国) ノクターンOp.55-2:伸びやかで素直な音楽性が光るロマンティックなノクターン。最後の2つの和音の音量も センスが良いと感じました。 エチュードOp.25-11:ノーミスというわけにはいきませんでしたが、速いテンポでこの完成度はさすがです。 エチュードOp.25-5:技術的にも安定していて、中間部の旋律も美しくロマンティックで良い演奏だと思いました。 マズルカOp.24-4:基本的なマズルカリズムを押さえながら、即興性豊かで自由自在。 作品を自分のものにしている印象。 スケルツォOp.54:技術的に高度で華やかなスケルツォですが、やや弾き急ぎのきらいも・・・
A 5. Fanze Yang(中国) エチュードOp.10-5:粒立ちの良いキラキラとした音色で目の覚めるような気持ちの良い演奏。 エチュードOp.25-6:言わずと知れた超難曲ですが、何という俊敏な指さばき。抜群のコントロール。 久々にこの曲の真の名演に出会えました。 ノクターンOp.27-2:抑制のきいた美音と節度のある息の長いフレージングで気品のある格調高いノクターン。 マズルカOp.30-3:リズムの面白さ、和声の変化や転調の妙味を存分に引き出していて見事だと思います。 スケルツォOp.39:ダイナミックさと繊細さを併せ持つ、スケールの大きい演奏。 最後の方は疲れのためかややミスが目立つようになってきたのが惜しまれます。 やや粗削りなところはありますが、テクニック、音楽性ともに非常に筋がよく、大器のポテンシャルがありそうです。
B~C 6. Juan Mas Choclán(スペイン)
エチュードハ短調Op.10-12 ノクターンOp.62-2:優しく語り掛けるような温かい演奏。思わずほろりと来てしまいそうです。 中間部やかなりテンポを動かした自由な演奏。 マズルカOp.30-4:テンポやデュナーミクはかなり大きく動かしていますが、それが逆にこの曲の本来の良さを 引き立てていました。 エチュードOp.10-11:かなりルバートをかけていますが、この曲の旋律やハーモニーの美しさは 十分表出されていてよい演奏だと思いました。 エチュードOp.10-12:技術的な精度は粗いですが、力強く輝かしい演奏。これはこれで素晴らしい演奏だと思いました。 スケルツォOp.31:自由で大らかでスケールの大きいロマンティックなスケルツォでした。 細かいことは気にしないという趣で、アジア人とのアプローチの違いが歴然としていると感じました。 これまでの出場者で多数を占める「優等生的」なピアニストとは方向性が異なる、このような、 音楽をよりマクロに大きく捉えた おおらかな演奏は、審査的にはどのような扱いを受けるのか、全く読めないです。
A~B 7. Nishimoto Yuya(西本 裕矢、日本) ノクターンOp.48-1:静謐な詩情を落ち着いたテンポで表出。強奏はややソフトで節度を持って表出。 エチュードOp.10-8:比較的落ち着いたテンポで粒がきれいに揃った完成度の高い素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-10:オクターブ連続も安易に弾き飛ばさず、地に着いた足取りで丁寧に演奏。完成度が高い。 マズルカOp.33-4:実直で安定感のある演奏。あまり面白みはないとも言えますが、基本に忠実で個人的には好きな演奏です。 スケルツォOp.31:上品で繊細で非常に丁寧な演奏。力で押しまくる奏者が多い中で、このような演奏は珍しく、耳に新鮮に聴こえました。 全体的に非常に丁寧で精緻な演奏で、安定感抜群ですが、全体的に音量が小さいように感じました。審査でこれがマイナス点にならなければ良いのですが。でもショパンは本来こうあるべきだと思いますし、個人的には好きな演奏なので、買いかぶりすぎかもしれませんが、A~Bとしました。
4月26日後半17時~21時(日本時間:4月27日(日)午前0時~4時)
C 8. Ojiro Anna(尾城 杏奈、日本) ノクターンOp.62-2:ソフトな音色がこの曲の優しい曲調にマッチ。自然な流れのオーソドックスな良い演奏。 エチュードOp.25-6:音の粒はやや不揃いながら、この難曲をここまで弾けていれば・・・ エチュードOp.10-8:音楽的には良い演奏だと思います。 マズルカOp.59-1:表現力豊かで良いと思いますが、もう少しフレージングが長い安定した演奏の方が好みです。 スケルツォOp.54:全体としてはオーソドックスで良い演奏だと思いますが、技術的にはやや粗い・・・ 他の出場者のレベルの高さを考えると通過は厳しいでしょうか・・・
C 9. Ong Vincent(マレーシア) ノクターンOp.62-1:遅めのテンポを軸に細かくテンポを動かす。 ただもっと流れの良い自然な演奏の方が好みです。 エチュードOp.10-1:ダイナミックで良い演奏。 エチュードOp.25-6:不揃いなところはありますが概ね良い演奏。 マズルカOp.50-3:テンポを細かく動かして揺らぎを作っていますが、僕の好みには合いませんでした。 スケルツォOp.39:技術的には良いと思いますが、あまり奇をてらわない、余計なことをしない演奏の方が好みです。
B~C 10. Onoda Arisa(小野田 有紗、日本) ノクターンOp.48-1:オーソドックスで中間部後半から主部の再現部への盛り上げ、ダイナミックな表現は 素晴らしいと思いました。 エチュードOp.25-6:速めのテンポですが基本的に音の粒は揃っていて良い演奏でした。 エチュードOp.10-8:音の粒は揃っていて音楽的にも素晴らしい演奏でした。 マズルカOp.59-3:この曲の標準的な演奏。奇をてらわず基本に忠実な演奏スタイル。 スケルツォOp.20:主部はダイナミック、中間部の旋律の美しさも十分引き立てていました。 全体として印象に残りにくいタイプの演奏ではありますが、通過は期待できると思います。
B 11. Pan Wenyuan(中国) ノクターンOp.48-1:箱鳴りのする深い音色でダイナミックにピアノを歌わせ、感動的な終結部を迎える。 マズルカOp.41-1:この目立たない地味なマズルカから最もダイナミックな要素を自然に引き出していて 素晴らしいと思いました。 エチュードOp.10-5:粒立ちの良いキラキラした音色で良い演奏でした。 エチュードOp.10-10:この曲の音楽的な魅力を存分に引き出した素晴らしい演奏。 ただ技術的にやや不明瞭な部分が散見されたのが惜しまれます。 スケルツォOp.31:ダイナミックな第1主題とメロディアスな第2主題の対比が見事。 やや粗削りながら、ダイナミックでスケールの大きい男性的な演奏でした。 この人の演奏は非常にダイナミックですね。だからこそカンタービレの美しさもより引き立ちますし、 やはり強く美しい音が出せるピアニストはそれだけで圧倒的に得ですね。 見た目によらず腕っぷしが強いのでしょうね。
B 12. Park Chaelin(韓国) マズルカOp.41-4:ロマンティックで良いマズルカだと思いました。途中、少し乱れてしまいましたが・・・ ノクターンOp.48-2:1音1音大切に丁寧に紡ぎ出していく、流れが自然で美しい演奏。 中間部は適度な即興性が良いと思いました。 エチュードOp.10-4:音の粒も揃い迫力も十分、安定感があり素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-6:やや遅めのテンポですが、きれいに粒が揃い、ほぼ完璧な演奏でした。 スケルツォOp.20:技術的に正確で迫力不足にもなっていない、良い演奏。 中間部のクリスマスソングも自然な抑揚を付けて音楽的な良い演奏。 高い技術と自然な音楽性。決め手に欠ける印象ですが、通過と思います。
B 13. Park Jinhyung(韓国)
前回からの再挑戦。予備予選では良い演奏をしていた人です。
C 14. Prokopowicz Yehuda(ポーランド) ノクターンOp.48-2:伸びのある美音で自然な節回しの良い演奏。最後の方はもっと流れの良い演奏が好きですが。 エチュードOp.25-10:主部はダイナミックですが、やや粗いところも。中間部も基本的には良いと思いましたが、途中、 音楽の流れが「溜め」が強すぎて止まりそうになるところも。実際、ちょっとした弾き直しが。 エチュードOp.10-12:荒っぽいですが迫力がありダイナミックな演奏。
4月27日前半10時~14時(日本時間:4月27日(日)午後5時~9時)
A 1. Boggian Tommaso(イタリア) ノクターンOp.62-1:落ち着いたテンポで自然な流れのシックで上品なノクターン。 エチュードOp.10-8:キラキラとした輝かしく粒の揃った音で、完成度の高く美しい演奏。 エチュードOp.10-7:惜しい引っ掛けはありましたが、技術的には完成度の高い演奏でした。 マズルカOp.24-4:伸縮自在のテンポ、表現がこなれていると思いました。 スケルツォOp.54:主部は軽妙で洒脱、音の粒も揃っている。 中間部はテンポの軸がぶれず、ルバートのセンスが抜群。この鬱屈した旋律の本来あるべき姿で再現されている。 この作品の理想的な演奏の1つ。 ※前々回のシャルル・リシャール・アムランを思い出しました。この人のコンサートを聴きに行きたくなりました。
C 2. Qin Yangyue(中国) エチュードOp.10-10:音楽的には良い演奏ですが、技術的にやや不安定・・・ エチュードOp.10-4:音はやや不揃いながら、大きなミスはなく良い演奏だと思いました。 ノクターンOp.27-2:旋律の美しさを自然に引き出していて良い演奏だと思いました。 マズルカOp.24-4:各楽想の表情付けが自然で良い演奏だと思いました。 スケルツォOp.54:全体として良い演奏だと思いましたが、技術的に不安定なのが惜しいです。
A 3. Rao Hao(中国) 前回2021年第18回ショパンコンクールでは弱冠17歳で本選に進出。 ご記憶の方も多いのではないかと思いますし、この日を楽しみにしていた方も多いと思います。 ノクターンOp.55-2:自然な流れですが、細部の表現はよく考えられ、練られている、 やや考えすぎのきらいもありますが、良い演奏だと思いました。 マズルカOp.30-4:遅めのテンポで丁寧な音楽作り。安定していて安心して身をゆだねられる演奏。 エチュードOp.10-2:技術的に安定していてミスタッチが全くない、まさに完璧な演奏! エチュードOp.25-11:確かな足取りで弾き進めていく非常に丁寧な木枯らし。ミスもほとんどなく完璧。 スケルツォOp.39:確実に大切に弾き進めていく。丁寧でありながらダイナミックで迫力もあり王道のスケルツォ。 期待を裏切らない演奏と思いました。今回も期待できるのではないでしょうか。
B 4. Rodrigues Uemura Ingrid(ブラジル) ノクターンOp.55-2:旋律を伸びやかに歌わせる。屈託のないストレートで素直な演奏、好感が持てます。 エチュードOp.25-5:流れも自然で伸びやかで素直な良い演奏だと思いました。 エチュードOp.10-4:きれいに粒が揃い技術的に非常に上手い演奏で感動しました。 マズルカOp.24-4:心にストレートに響く素直で好感が持てる演奏。 スケルツォOp.39:適度にダイナミックで細かい動きも粒が揃っていて完成度が高い。素晴らしい演奏。 この人の演奏もなかなかよさげですね。 ※このセッションはレベルが高かったですね。
C 5. Sejbuk Zuzanna(ポーランド) マズルカOp.41-1:憂鬱な雰囲気の中にドラマティックな要素も十分に引き出した良い演奏だと思いました。 エチュードOp.25-5:技術的にも音楽的にも優れた良い演奏。 エチュードOp.10-8:音の粒が揃っていて完成度が高い。ちょっと引っ掛けがあり惜しいです。 ノクターンOp.37-2:流れが自然で美しくしなやかなノクターン。 スケルツォOp.54:細部が粗くなりミスが多発し完成度が甘くなってしまいました。疲れでしょうか。 他の曲が良い演奏だっただけに残念です。
C 6. Sen Efe(トルコ) ノクターンOp.48-1:出だしの旋律の抑揚が感動的で既に聴く人の心をつかむ。 中間部後半から最後にかけてのクライマックスはダイナミックで聴いている人の身体に電気が走るような 感覚を覚えるほど。非常に良い演奏でした。 エチュードOp.25-5:特に中間部の感興豊かでスケールの大きい表現が秀逸。 エチュードOp.10-1:この曲を「大きく」捉えた演奏ですが技術的にやや不安定・・・ マズルカOp.41-1:ピアノを完全に鳴らしきった美しい和音が聴きもの。 スケルツォOp.31:やや荒削りながらダイナミックでスケールの大きい良い演奏。
A 7. Shi Hanwen(中国) ノクターンOp.27-2:シャープですっきりとした音色で奇をてらわず素直に演奏、 この作品のありのままの姿を再現した良い演奏だと思いました。 マズルカOp.59-1:クリアな音色で適度に陰影をつけていて、確かな輪郭と手ごたえの感じられる立体的な マズルカだと思いました。 エチュードOp.10-4:テンポは速いのですがダイナミックで技術的に正確で非の打ちどころのない圧巻の演奏。 エチュードOp.25-10:ダイナミックだが音が濁らない、 中間部のオクターブの旋律部は音量と和音のバランスが鉄壁のコントロール。若き日のポリーニを彷彿と させます。 スケルツォOp.54:和音の連続部も1つ1つの和音のバランスは完璧、主部の中ほどの例の難所も 粒が揃い、テンポも自在、完全に弾きこなしている。 中間部の憂鬱な旋律も余計なことをせずに聞く人の心に真っすぐに届けてくれる。非常に優れた演奏。 これはまたとんでもない大物が出てきましたね。
4月27日後半17時~21時(日本時間:4月28日(月)午前0時~4時)
C 8. Shigemori Kotaro(重森 光太郎、日本/フランス) ノクターンOp.62-2:丸みを帯びた温かい音色がこの曲の優しい旋律にマッチしている。 まろやかで安定した演奏で安心して身をゆだねることができる良い演奏。 エチュードOp.10-1:概ね良い演奏ですが、もったないミスや引っ掛けが結構多い・・・ エチュードOp.10-10:音楽性豊かで良いと思いますが右手の外声部がもっと際立たせた演奏が好きです。 マズルカOp.50-3:とてもまろやかで音楽的な良い演奏だと思います。 スケルツォOp.54:細かいパッセージの音の粒が揃っていて、聴いていて心地よい演奏。 ミスが多いですが、技術的には安定しているので普段はもっと弾けているのだと思います。 実力を出し切れなかったようで残念です。
B 9. Shimada Jun(島田 潤、日本) ノクターンOp.48-1:冴えた弱音から始まって曲が進むにつれてダイナミックに盛り上げて行く。 劇的で感動的なクライマックス。素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.10-10:技術的に非常に安定していて、この作品の音楽的な魅力も 十分すぎるほど引き出していて見事です。 エチュードOp.25-11:速めのテンポの「攻めた」演奏。偶発的なミスはあるが、 技術的な精度は非常に高い。良い演奏です。 マズルカOp.56-3:他の出場者が敢えて避けるこの屈折した音楽的に難しい作品を選曲するところに 気概が感じられます。音楽的に表現力豊かで良い演奏だと思いました。 他のマズルカ、例えばOp.24-4やOp.33-4が食傷気味の耳にこの曲が心地よく響き、 この選曲は成功と言えそうです。 スケルツォOp.39:特に高音から駆け下りてくるキラキラした音型の粒の揃い方は これまでのこの曲を弾いた全出場者でこの人が一番。 コーダもダイナミックでありながら精緻。
B~C 10. Shin Hyojin(韓国) エチュードOp.25-5:技術的に安定していて音楽的にも自然で良い演奏。 エチュードOp.25-11:音の粒が非常によく揃っていて技術的に安定している。 引っ掛けやミスは偶発的、ノーカウントにしたい。 ノクターンOp.48-2:流れに淀みがなく自然で美しい演奏。 マズルカOp.30-3:リズムの刻み方やテンポの配分など全てがよくコントロールされていて良い演奏。 スケルツォOp.31:全体的に丁寧でロマンティックな演奏。
B 11. Shindo Miyu(進藤 実優、日本) ノクターンOp.27-2:そのまま弾いても十分に美しい曲ですが、そこに細かいテンポの揺らぎを入れて、 流れが単調にならない工夫が随所に見られる、創意工夫に満ちた良い演奏だと思います。 スケルツォOp.31:ロマンティックな演奏。細かい音型の粒がきれいに揃っていて完成度が高い。 マズルカOp.56-1:適度な即興性でこの作品の自由で夢想的な雰囲気を十分に引き出していて素晴らしい演奏です。 エチュードOp.10-10:右手の内声と外声のバランスがよくこの作品の音楽的な魅力も自然に引き出していて 良い演奏でした。 エチュードOp.25-11:音の粒立ちが良くミスタッチもほとんどない、素晴らしい木枯らしでした。
B 12. Shoji Mana(東海林 茉奈、日本) マズルカOp.24-4:緊張のためか、やや慎重で固めな出だし。 遅めのテンポで丁寧な音楽作り。 スケルツォOp.31:変ト長調で始まるロマンティックな旋律は、流れが自然で美しい。 難所も音の粒立ちがよく完成度の高い素晴らしい演奏。 ノクターンOp.27-2:余計なことをせずに作品に語らせる趣。控えめでセンスの良いルバートが耳に心地よい。 装飾的パッセージのバリエーションを取り入れているのも興味深い。 エチュードOp.10-8:速い動きも音の粒立ちがよく爽快な演奏。ほぼ完璧。 エチュードOp.10-10:技術的に完成度が高く音楽的にもロマンティックな演奏。
A~B 13. Starikov Vitaly(イスラエル)
2021年エリザベート王妃国際音楽コンクール第5位、2023年シドニー国際ピアノコンクール第6位 この人、顔の輪郭や髪型がブレハッチに似ていると思いませんか?いや似てないか・・・
A 14. Strata Gabriele(イタリア) ノクターンOp.27-2:滴るような美音、遅めのテンポでこの曲に宿る静謐で神々しい雰囲気を醸し出す。 マズルカOp.30-3:基本的に楽譜に忠実な演奏ですが、適切なルバートとデュナーミクにより、 このマズルカの美しさや面白さが自然に引き出される。 エチュードOp.25-10:主部は強奏でも音が濁らずクリアに聴こえる。 中間部のオクターブの旋律部はセンスの良い適度のルバートで硬質な音色とハーモニーが 鉄壁のコントロールを得てロマンティックに浮かび上がる。圧巻の演奏。 エチュードOp.10-5:速すぎないテンポで音の粒はクリア、軽妙で上質な素晴らしい演奏。 スケルツォOp.39:オクターブ連続部も力任せではなく音量と音質、タッチがよくコントロールされていて 完成度が高い。高音から駆け下りてくるキラキラした音型の部分も粒が揃い、清々しく爽やか。 コーダも安易に弾き飛ばさず非常に丁寧で精緻でありながら十分ダイナミック。圧巻の演奏。
4月28日前半10時~14時(日本時間:4月28日(月)午後5時~9時)
B~C 1. Strejcová Eva(チェコ) ノクターンOp.27-1:ルバートは少なめでセンスが良い。自然に流れていくほの暗い旋律。 中間部の盛り上げ方も自然で良い演奏。 エチュードOp.10-5:速すぎないテンポ、粒も揃っていて良い演奏。 エチュードOp.25-5:全く破綻がない、極めて自然体。中間部のロマンティックな旋律のフレージングも素晴らしいと 思います。 マズルカOp.56-3:細切れの楽想を自然に描き分けて1曲としてまとめている。正統派の演奏。 スケルツォOp.20:主部は遅めのテンポで、ペダルは少なめで1つ1つの音がクリア。 中間部の旋律の歌わせ方もオーソドックスだが内声部を強調するなどの工夫も。 全体的にそつなく弾いてはいますが、いわゆる「守りの演奏」なので、印象に残りにくそうです。
B 2. Su Szu-yu(台湾) 前回からの再挑戦(前回は2次予選まで)。 ノクターンOp.27-2:オーソドックスで流れも自然で美しい演奏。 マズルカOp.24-4:デュナーミクもアゴーギクも大きいが全てが自然。模範的な演奏。 エチュードOp.25-5:流れがよく完成度も高い。中間部もロマンティックで美しい。 エチュードOp.10-4:音の粒がきれいに揃い、迫力も十分。素晴らしい演奏。 スケルツォOp.54:技術的にかなり正確で切れ味が鋭く完成度の高い演奏。 技術的な完成度は極めて高いのですが、印象には残りにくいかもしれません。
A~B 3. Sun Fansum Kenny(中国) ノクターンOp.48-1:深い音色、中間部後半からコーダへの盛り上げ方もドラマティックでよいと思います。 エチュードOp.10-1:ダイナミックで音の粒立ちも良い、ミスタッチも少ない。素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-10:ダイナミックで完成度高い。中間部のオクターブの旋律も流れが自然で深い。 マズルカOp.33-4:オーソドックスで適度にリズミカル、上質なマズルカ。 スケルツォOp.39:主部のオクターブ連続部は迫力十分ですが、 ダンパーペダルを控えめにしてクリアさを意識していると思われます。 高音から駆け下りてくる音型も粒がきれいに揃い美しい。コーダも迫力だけでなく技術的精度も高く圧巻。
B 4. Sun Haolun(中国) ノクターンOp.48-1:比較的ソフトな音色で静かな出だし、後半のクライマックスに向けて 徐々に高揚していく流れの作り方が秀逸。 エチュードOp.10-7:交代連打のタッチがクリア、若干のミスタッチはありますが良い演奏です。 エチュードOp.10-12:技術的に完成度が高い。情熱的で迫力のある演奏。 スケルツォOp.39:ダイナミックでピアノを完全に鳴らし切っている。コーダは超絶技巧系の弾き方。 マズルカOp.59-3:概ね良い演奏ですが、テンポ配分、強弱などは僕の中にあるこの曲の理想とはちょっと違いました。
B 5. Sun Yutong(中国) 前回からの再挑戦。 マズルカOp.56-1:ルバートは大きいが方向性は正しくこの曲のオーソドックスを踏まえたもの。 この曲の美しさと面白さの両方を引き出した良い演奏だと思いました。あの大きなミスがなければ・・・ エチュードOp.25-5:最初の方で大きなミスが・・・しかし中間部の陶酔するような「歌」はそれを補って余りある。 エチュードOp.10-1:ダイナミックでスケールの大きい立派な演奏。多少の音の不揃いはノーカウント。 ノクターンOp.48-1:中間部後半の両手のオクターブ進行でドキッとするような脱線が・・・ でもこの人のフォルティッシモの音色、好きです。中間部後半からの展開は惹きこまれました。 スケルツォOp.39:基本的にとても良い演奏でしたが、弾き直しが・・・悪夢を見ているような・・・ 技術的には完成度が高いので、普段はかなり弾けていたはずです。 この人の実力にしてこの弾き直しは信じられないです。あまり緊張しないタイプに見えますが、 実は相当緊張していたのだと思います。 もう一度聴きたいという意味では通過に一票です。 弾き直しと言えば、ユンディ・リが優勝した2000年第14回ショパンコンクールで第3位となった アレクサンデル・コブリンは予選でこのスケルツォOp.39の演奏中、止まってしまい、弾き直しをしてしまいました。 それでも予選を通過して第3位を獲得しています。 前回のショパンコンクールの1次予選でエチュードOp.10-2で弾き直しを繰り返しパニックになった ピアニストのことは記憶に新しいです。 コンクールには魔物が棲むと言われますが、本当に怖いです。
A 6. Tan Qianlin(中国) ノクターンOp.48-2:速めのテンポ。良く言えば「流れが良い」とも言えますが、 悪く言えば「陰影に乏しい」とも。緊張のだめだと思います。 マズルカOp.59-1:この作品のオーソドックスを踏まえた演奏。もう少し哀愁が漂う演奏の方が好きですが。 エチュードOp.10-4:異常なほど粒立ちが揃い恐ろしいほどの高い完成度の圧巻の演奏でした。 エチュードOp.10-2:この屈指の難曲エチュードをここまで滑らかに弾かれては形容する言葉もないほどです。 スケルツォOp.31:ダイナミックでありながら繊細かつロマンティック。 中間部後半やコーダなどの難所も無駄にテンポをあげず、1つ1つのパッセージをクリアに処理。 非常に完成度が高く美しい圧巻の演奏でした。
4月28日後半17時~21時(日本時間:4月29日(火)午前0時~4時)
B 7. Tao Nachuan(中国) マズルカOp.33-4:全体的に軽いタッチのオーソドックスな演奏。 ノクターンOp.62-2:落ち着いたテンポのごく普通の演奏。ただもっと流れの良い自然な演奏の方が好きです。 エチュードOp.10-8:粒立ちの良いタッチの軽妙で素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-5:技術的に高度な演奏。中間部の旋律はあっさり目。もっと朗々と歌う演奏が好みです。 スケルツォOp.54:細かいパッセージは軽妙で粒ぞろいのタッチ。中間部の歌がやや平板な印象。 好みの問題でしょうか。
A~B 8. Tao Ziye(中国) マズルカOp.41-1:落ち着いた遅めのテンポでしっとりと歌わせ、最後の盛り上げも節度と品を保つ。 スケルツォOp.54:速い和音の連続も抜群の切れ。細かいパッセージも均質なタッチでコントロール抜群。 中間部の憂鬱な旋律も流れが自然で良い。 エチュードOp.10-4:軽妙で軽やかで音の粒も揃っている。ダイナミックでもあり振幅の大きい名演奏。 エチュードOp.25-6:概ね良い演奏。弾きにくい部分のテンポが不自然に落ちるのはやむを得ないか。 ノクターン枠でエチュードOp.25-7:憂鬱でやるせないという趣のこの旋律に極めて深い共感を抱きながら 演奏しているのが、よく伝わってくる(顔芸も含めて)演奏でした。
B~C 9. Tian Hao(中国) ノクターンOp.62-1:それそれの音、フレーズに「ゆらぎ」を入れて濃厚な表情付け。 流れが単調にならない工夫だと思いますが、それが鼻につく人もいるかも・・・ エチュードOp.25-5:中間部はかなり即興性が強くルバートも多め。これも好みが分かれそうな演奏です。 エチュードOp.10-5:速めのテンポ、かなり自在にテンポを動かし、躍動感に溢れた生き生きとした音楽が立ち上がる。 マズルカOp.59-1:この作品は付点音符、プラルトリラー、装飾的パッセージが頻出しますが、 それらが躍動感をもって生き生きと立ち上がってきます。ユニークではありますが、これは十分「あり」な 演奏だと思います。 スケルツォOp.54:かなりテンポを大きく動かし聴く人を強烈にドライブするような演奏。 聴いていてちょっと疲れますが、 これだけやりたいことを聴く人にはっきり伝えてくれるピアニストはなかなかいないですし、 それを可能にする技巧と思い切りの良さも素晴らしいです。 個人的には好きなタイプではないですが、興味深い演奏をする人ではあります。
A~B 10. Tie Shunshun(中国) 前回からの再挑戦。前回の予備予選でも非常に良い演奏をしていて、こちらでも一押しの出場者として 注目していた人です(結果は1次予選敗退)。 ノクターン枠でエチュードOp.25-7:淡々と弾いているようで左手の旋律は十分表情豊かに歌わせていて、 憂鬱な中に宿るやるせなさを静かに表出していました。センスの良い演奏です。 エチュードOp.10-8:音の粒立ちは驚異的で「メカニック」の一歩手前。素晴らしい演奏です。 エチュードOp.25-5:技術的に高度で完成度が高い。中間部はかなり大きくテンポを動かして即興性豊か。 マズルカOp.30-4:オーソドックスな演奏ですが、ややテンポが速いような気も・・・ スケルツォOp.20:メカニカルなテクニックがこの作品の技術的性質にマッチしていて、 非常にシャープな輪郭を持つ音楽として立ち上がっていました。
C 11. Tomica Mateusz(ポーランド) ノクターンOp.27-1:ルバートは少なくあっさり目ですが、それがこの作品のほの暗い雰囲気に合っていて 良い演奏です。 エチュードOp.10-7:遅めのテンポで確実性を重視した演奏。3度と6度の交代連打、難しいですよね。 エチュードOp.25-11:概ね良い演奏だと思いますが、技術的に少し弱く不安定なのが気になりました。 マズルカOp.33-4:オーソドックスな演奏だと思いますが、 プラルトリラーや装飾的パッセージの処理はやや曖昧な部分もありました。 スケルツォOp.20:普通の演奏ですが、技術的にはやや粗い・・・ メカニックサイボーグ集団の中国勢と比較してしまうと、欧米人の出場者はおしなべて技術的に聴き劣りしてしまうのは 仕方ないですね。
B~C 12. Trevelyan Julian(イギリス)
2015年ロン=ティボー国際コンクール第2位(1位なし) ミスタッチも多く、脱線しかけたところもありますが、緊張のためだと思います。 自分の音楽を持っていて聴く人にはっきりと伝えてくれる貴重な存在だと思います。
C 13. Trubač Vojtěch(チェコ) ノクターンOp.27-2:装飾的パッセージのバリエーションを採用。落ち着いたテンポで控えめなテンポルバート、 聴きやすい演奏。ミスや引っ掛けは多め。 マズルカOp.59-1:リズムは重め、この曲にしては重厚感のあるマズルカ。 エチュードOp.10-5:ソフトな優しいタッチの比較的大人しめの黒鍵のエチュード。 エチュードOp.10-10:ロマンティックで良い演奏だと思いますが、音の不揃いやミスは多め。 スケルツォOp.20:重厚なスケルツォ1番。
4月29日前半10時~14時(日本時間:4月29日(火)午後5時~9時)
B 1. Guo Eric(カナダ)
ショパン国際ピリオド楽器コンクール第1位
B~C 2. Deng Yubo(中国) ノクターン枠でエチュードOp.25-7:落ち着いた遅めのテンポで丁寧な音楽作り。やや固いか。 エチュードOp.25-10:オクターブの連続部は遅めのテンポで確実な進行。 中間部のオクターブの旋律部はやや固さがあると思いました。 エチュードOp.25-11:音量とテンポを抑え気味にした丁寧な演奏。アシュケナージの演奏を彷彿とさせる。 マズルカOp.30-4:この曲の標準を踏まえた良い演奏ですが、これもやや固いような気がします。 スケルツォOp.39:遅めのテンポで丁寧な弾き方。良い演奏。
C~D 3. Tellian Kiron Atom(オーストリア) ノクターンOp.62-1:タメを作りながら非常に遅いテンポで切々と語っていくような演奏。 マズルカOp.33-4:リズム、テンポ、強弱をかなり大胆に動かしているが作品の枠内に収まっている。良い演奏。 エチュードOp.25-11:弾き始めは速いテンポでしたが難所でテンポが落ちてしまう、不安定な演奏となってしまいました。 エチュードOp.25-6:緊張のためだと思いますが、恐らく本人にとってもかなり不本意な出来だと思います。 スケルツォOp.54:即興性が強い弾き方。テンポをかなり大きく動かして変幻自在な演奏。ミスタッチ多く、脱線もあり。
B~C 4. Tsujimoto Rikako(辻本 莉果子、日本) マズルカOp.56-3:この曲のオーソドックスを踏まえた良い演奏。 エチュードOp.25-5:中間部のフレージングはあっさり目、良い演奏。 エチュードOp.10-4:音の粒も揃い迫力十分、ミスタッチもほとんどない。素晴らしい演奏。 ノクターンOp.27-1:主部はルバート少なめ、あっさりしていて聴きやすい。中間部は十分に迫力もあり ドラマティック。 スケルツォOp.20:技術的も良く音楽的にも妥当。ただあまり特徴がないというか・・・
B 5. U Chun Lam(中国) 落ち着いたテンポでルバートは少なめ、節回しは懐が深い。 和音の連打部分も深い音色を保ち気品があり格調の高さを保っていた。完成度の高い素晴らしい演奏。 エチュードOp.10-4:技術的に全く非の打ちどころなし、ミスタッチもなし、完璧な演奏。 エチュードOp.25-4:軽妙で音楽的にも純度が高く素晴らしい演奏。左手の低音で音抜けはミスタッチ多少あり。 マズルカOp.33-4:やや遅めのテンポで重厚なマズルカ。 スケルツォOp.39:オクターブ連続部はズシリと重みのある重厚な和音の連続。重戦車のようなスケルツォ。
B~C 6. Wang Liya(中国) ノクターンOp.62-1:節回しは動きが多い、こぶしをきかせるタイプ。 基本、良い演奏なのですが、好みが分かれそう。 個人的にはこの曲はルバート少なめの静謐でスマートで格調高い演奏が好みです。 エチュードOp.10-4:技術的に高い水準。ペダリング、アクセントや保持音などユニーク。 そういう版があるのでしょうか。 エチュードOp.25-4:遅めのテンポで確実性を重視。内声を強調するなどの工夫も。 マズルカOp.30-3:マズルカリズムが躍動していてダイナミック。良い演奏。 スケルツォOp.54:速めのテンポでかなり即興性の強く、聴く人を強烈にドライブするような 熱いパッションに満ちた演奏。こういう演奏を「うるさい」と感じる保守的な先生もかなり多そうで、 これも好みが分かれそうです。正直に言うと、個人的にはこういう演奏は苦手です・・・
C 7. Wang Quanlin(中国) マズルカOp.50-3:ごくオーソドックスで真面目なマズルカ。 エチュードOp.10-4:技術的な精度は非常に高い。ミスタッチほとんどなし、完璧。 エチュードOp.10-10:ロマンティックで流れも良いが、途中、脱線し、拍が脱落。 ノクターンOp.48-1:ルバート少なめ、流れが良い。中間部後半から最後に向けてのクライマックスは 慎重さを優先したと思われます。 スケルツォOp.39:ダイナミックで悪くないのですが、細部はやや粗い。
4月29日後半17時~21時(日本時間:4月30日(水)午前0時~4時)
B 8. Wang Ryan(カナダ) ノクターンOp.62-1:控えめなルバートでフレージングの「見通し」も良く非常に聴きやすい。 気品に満ちた格調高い演奏。 マズルカOp.59-3:爽快なテンポで前へ前へ弾き進めていく。やや固いかな、と思いましたが・・・ エチュードOp.10-10:テクニックは完璧、各声部のバランス、拍感もアーティキュレーションも非の打ちどころがない。 最初の方のかなり大きなミスが惜しまれます。 エチュードOp.10-5:軽快で爽快なとても良い演奏ですが、最後の最後で脱線して拍が脱落。惜しい・・・ スケルツォOp.39:オクターブ連続部は丁寧でありながら迫力十分。
9. Wang Yuhang(中国) エチュードOp.10-1:遅めのテンポで柔らかな感触、この曲のハーモニーの美しさが聴く人によく伝わる 音楽的な演奏。こういう演奏もいいですね。 エチュードOp.10-2:ソフトなタッチの大人しめの演奏。右手のミスタッチはない。 ノクターンOp.27-2:主部は弱音基調と言っても、これは音が弱すぎでは、という気がします。 ルバートは少なめが好みですが、少なすぎると、ただの「棒弾き」になってしまい、程度問題です。 個人的な感覚では、もっとデュナーミク、アゴーギクを大きく取ってほしかったです。 マズルカOp.56-1:8分音符の連続部分の右手の音抜けは、さすがに・・・と思ったら、 次の8分音符の連続部分で演奏停止。手が震えている・・・ 継続を断念し、立ち上がり一礼して退場。 会場は静まり返る・・・ しばしの沈黙の後、10分間の休憩に。 まるで悪夢を見ているようです。 コンクールには魔物が棲む・・・本当に怖いです。
B 10. Wang Zitong(中国) マズルカOp.50-1:適度にリズミカルですが、基本重厚で真面目なマズルカ。 エチュードOp.10-7:技術的にも十分、アーティキュレーションも妥当。良い演奏と思います。 エチュードOp.10-5:歯切れもよく爽快ですが、テンポを落とすべきところで落とすなど、 表現もよく練られていると思いました。 ノクターンOp.48-2:テンポも強弱もかなり大きく動かしていますが、 それが全く嫌味にならず、むしろ聴く人の心に強く迫る感動的な旋律となる・・・このノクターン、いいですね。 スケルツォOp.20:速いパッセージの切れ味が良い。同じパッセージも登場するたびにタッチとペダリングを変える。 中間部のフレージングも自然で美しい。コーダは迫力がありながらも技術的にはきめが細かく精緻。 非常に質の高い演奏。
B 11. Widlarz Jan(ポーランド) ノクターンOp.48-1:主部の旋律は控えめでセンスの良いルバート、気品に満ちた格調高さ。 後半の和音の連続部はテンポを動かしながらも軸がぶれずに安定。 エチュードOp.10-12:技術的に高度で非常に安定している。情熱的で迫力あり。 エチュードOp.25-10:オクターブの連続は完璧。中間部のオクターブの旋律の節回しも良い。 マズルカOp.50-3:本場ポーランド人のマズルカに物申す立場ではありませんが、一聴してかなり良い演奏に聴こえます。 スケルツォOp.54:主部は軽妙で洒脱、冷静でありながら適度に華がある。
D 12. Wong Kwan Chai (Enoch)(中立個人参加) ノクターンOp.62-1:出だしでいきなり大きなミス。緊張して焦っているのかテンポが速く安定しない。 全体を通して非常にハイテンポで、この曲にしてはかなり動的要素が強い。従来の常識にとらわれない演奏。 エチュードOp.10-10:1指と2-5指の独立に難がある弾き方。音価と音量がアンバランス・・・ この人も指が痙攣した状態で弾いている可能性があります。 エチュードOp.10-4:非常にハイテンポ、こんなに速いテンポなのにこちらはきちんと弾けています。 でもこの人はここまででしょう。
C 13. Wong Sze Yuen(中国) ノクターンOp.55-2:非常に伸びやかな美音。ルバートは良いのですが、リズムがやや前のめりで、 弾き急いでいる印象。緊張のためだと思います。 エチュードOp.10-8:1つ1つの音が輝いていてクリアですが、ところどころ粗くなる部分が。 エチュードOp.10-11:メロディーラインが美しくつながっていますが、 全曲を通して音価が不安定と思いました。 マズルカOp.24-4:リズムの安定感に欠けるように感じました。 今回はここまでだと思いますが、良い音を出す人なのでこの後、大化けする可能性はあると思います。
B~C 14. Victoria Wong(United States of America/ Canada) ノクターンOp.27-1:かなりしっかりしたタッチで弾き上げられた力強く立派なノクターン。 エチュードOp.25-5:ミスタッチも少なく良い演奏。中間部もロマンティックで素敵な演奏。 エチュードOp.10-8:音も輝いていて粒も揃い、美しい演奏。 マズルカOp.30-3:この曲のオーソドックスを踏まえた楽譜に忠実な良い演奏。リズムはやや重め。 スケルツォOp.54:適度に即興的でダイナミクスの幅も十分。技術的にも良い、全体として良い演奏だと思います。
4月30日前半10時~14時(日本時間:4月30日(水)午後5時~9時)
B 1. Wu Maiqi(中国) ノクターンOp.62-1:この曲にしては、かなりテンポが遅い。表現はよく練られていますが、やや考えすぎか。 マズルカOp.33-4:真面目で重厚なマズルカ。 エチュードOp.10-4:目立ったミスタッチなし。完璧。音の輪郭は丸く、インパクトは弱い。 エチュードOp.25-5:目立ったミスタッチなし。中間部のフレージングはあっさり目。模範的な演奏。 スケルツォOp.54:オーソドックスで適度に軽快で音の粒もきれいに揃っていて完成度が高い。 欲を言えば音の質感というか「手応え」みたいなものが欲しい (ただこれは手の骨格や相当な指の筋力が必要なので、女性ピアニストに求めるのは酷なものですが) ミスタッチが少なく非常に「隙のない」演奏をする人ですね。
B~C 2. Wu Yifan(中国) エチュードOp.10-1:ダイナミックで華やかな良い演奏。 エチュードOp.10-10:優しいタッチでロマンティックな美しい演奏。 マズルカOp.56-1:この曲の夢想的な雰囲気がよく出ている。8分音符の粒立ち・上品な質感は ブレハッチの名演を彷彿とさせる。終結部の右手の6度の連続する部分は躍動感あふれる生きた音楽として 立ち上がる。素晴らしいマズルカ。 ノクターンOp.48-1:ドラマティックで良い演奏。胸に熱いものがこみ上げる演奏なので、 多少の粗さを補って余りあります。 スケルツォOp.54:多少荒削りですが、即興性もあり思い切りもよい。 何より「やりたいこと」が伝わる演奏。
C 3. Wu Zihao(中国) マズルカOp.50-3:テンポを大きく動かす。躍動感がある。音はこもっていて固め。 ノクターンOp.27-2:妥当なルバート、中間部後半、終結部直前などはドラマティックに盛り上げる。 エチュードOp.10-5:速めのテンポ、華やかな「黒鍵」。ただ音抜けは多い・・・ エチュードOp.25-6:出だし、強めの音で、これは期待できるかと思ったが、不明瞭な部分はあり。 スケルツォOp.39:オクターブ連続部はテンポが速くやや粗い。コーダは超絶技巧系の弾き方。荒削りの迫力。
B 4. Xie Lingfei (Stephan)(中国)
前回からの再挑戦。前回、注目の1人に挙げていた人です。 この人、前回も注目していた人で、上手いところは天才的で、このノクターンは特に秀逸だと思ったのですが、 つまらないミスタッチや不揃いで印象を悪くして、ずいぶん損しているように感じました。 これがこの人の技術的な限界なのでしょうか。 まあ、でももう1回くらいは聴いてみたいので、通過に一票です。
C 5. Xin Kongyan(中国) ノクターンOp.48-1:出だしはかなりイン・テンポで固い。 中間部後半以降の和音連続の盛り上がりは、弱めの音で冷静。ちょっと物足りない印象。 エチュードOp.10-1:概ね良い演奏ですが、技術的には粗が多く決め手に欠ける印象。 エチュードOp.10-2:右手のタッチが弱く不揃いはあるがこの難曲をここまで弾けていれば十分立派だと思います。 マズルカOp.33-4:ノクターン同様、固いかな、と思いました。真面目で大人しいマズルカ。 スケルツォOp.31:とても優しくて軽やかでロマンティックな演奏だが華やかさには欠ける。 こういう物理的な音量が小さくメカニック的に弱い演奏が、審査員にどう判断されるのか、気になります。 音量だけでなく音色もソフトで目立たないのも、この人にとって不利な要素だと思います。
B~C 6. Yamagata Miki(山縣 美季、日本) ノクターンOp.62-2:とても落ち着いていてシックな演奏。妥当なルバート、流れが自然。 スケルツォOp.54:この曲にしてはタッチの質感は重め。オーソドックスで真面目な演奏。 マズルカOp.33-4:この曲のリズムの取り方の模範そのものの演奏、でも面白みが・・・ エチュードOp.25-6:この曲を技術的にここまで弾けていれば(音色はややもっさりしていますが)・・・ エチュードOp.10-5:これはキラキラとしていて適度に華やかで良い演奏でした。
A~B 7. Yamazaki Ryota(山﨑 亮汰、日本) ノクターンOp.48-1:落ち着いた出だし。音色も深くて良い。 後半の盛り上げ方も力任せにならずアーティキュレーションもよく練られている。素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-10:オクターブ連続は適度に華やかでありながら響きの純度は保たれている。 中間部のオクターブの「歌」は静かな流れの中にこみあげる情熱が節度を持って歌われている。 エチュードOp.25-11:完璧というわけにはいきませんが、十分すぎるほど良い演奏。 マズルカOp.59-1:1つ1つの音がよくコントロールされている。弾き急ぎたくなる部分もしっかりと 「ブレーキ」をかけて安定した流れを作る。そこはかとない哀愁が漂う良い演奏。 スケルツォOp.54:真面目でオーソドックス、適度に軽快で良い。 中間部の旋律は遅めのテンポで瞑想的。 全体的に音量が小さめで演奏に華やかさはあまりないですが、作品に誠実に向き合う姿勢に好感が持てます。 この人は通過するのではないかと思います。
4月30日後半17時~21時(日本時間:5月1日(木)午前0時~4時)
B 8. Viet Trung Nguyen(Vietnam/ Poland) 前回からの再挑戦。 ノクターンOp.27-2:静かな出だし。単音旋律部は比較的大人しく三度や装飾的パッセージで 音量が大きくテンポが速くなる傾向。比較的バランスの取れた良い演奏。 装飾的パッセージありのバリエーションを採用。 エチュードOp.10-12:左手の音の粒はやや粗いが、情熱的で良い演奏。 エチュードOp.25-4:左手の低音のミスや音抜けが比較的多いが音楽的には良い演奏。 マズルカOp.24-4:この作品のオーソドックスを踏まえた良い演奏。 スケルツォOp.20:ダンパーペダルを控えめにして、拍頭の左の和音に強いアクセントを付け、 パッセージは軽快で粒立ちを強調する弾き方。 ホロヴィッツの名演を彷彿とさせる。
B~C 9. Yang Jiwon(韓国) マズルカOp.33-4:リズムが柔軟で音も柔らかいためか、柔らかく優しい感触のマズルカ。 2回目の強奏部で大きく乱れ脱線、大事故には至らず。 エチュードOp.10-4:技術的には完璧、良い演奏。 エチュードOp.10-10:技術的にも音楽的にも高いレベル。ロマンティックで美しい演奏。 ノクターンOp.37-2:和音が連続する部分は自然な抑揚を付けていて流れが美しい。 ほとんどの出場者が選ばないこの曲が耳に新鮮に響く。 スケルツォOp.39:出だしからもったいないミスが多いですが、オクターブ連続部は丁寧な弾き方で 好感が持てます。
B 10. Yang Yuanfan(イギリス) 前回からの再挑戦。ノクターン枠でエチュードOp.10-3:この人、前回もこの曲を選択して 良い演奏をしていました。非常にオーソドックスで自然体で良い演奏ですね。 マズルカOp.33-4:オーソドックスで真面目で誠実な演奏。 エチュードOp.10-5:速いテンポで軽妙で爽快、目の覚めるような演奏。 エチュードOp.10-11:アルペジオの速度(縦の線)、テンポルバート(横の線)ともに 滑らかで自然、上質な音楽。 スケルツォOp.31:強奏でも鍵盤を叩かずタッチが丁寧。第2主題は歌い方が丁寧で誠実。 中間部後半の難所もテンポを上げすぎず細かいパッセージを丁寧に処理、それにより 質の高い音楽を生み出す。 とても誠実で真面目な演奏で好感が持てます。
B~C 11. Yao Jialin(中国) ノクターンOp.55-2:深い音色、とても柔らかく懐が深くロマンティック、抑揚も自然。これは良い演奏。 センスの良い終わり方(やや弱音)。 エチュードOp.10-10:テンポを大きく動かして感性の自由な飛翔を感じさせる演奏。 エチュードOp.25-11:完璧ではないが、美しい音色で音楽的な魅力がある演奏。 マズルカOp.41-1:柔らかく深い音楽。憂鬱な中にシックな優しさがある。 スケルツォOp.54:中間部の旋律の節回しは素晴らしく魅力的。主部は技術的な粗が結構・・・ 技術的な粗を音楽性で埋められるかどうか・・・通過はちょっと厳しいでしょうか。
C 12. Ye Adria(アメリカ) マズルカOp.50-3:陶酔するような出だし、いいですね。主部は思い入れたっぷりに歌う。 中間部はリズムが躍動する。 エチュードOp.10-8:音の粒は良く揃っていて軽妙、中間部の難所でミスが多くテンポが不安定になるのが惜しい・・・ エチュードOp.25-5:中間部は遅めのテンポで1つ1つのハーモニーに細かく丁寧に表情を付ける。 それによって楽想の魅力が立ち上がる。良い演奏だと思いました。 ノクターンOp.62-2:極端に遅いテンポ。 丁寧で良いという人と流れが悪い、間延びしていて退屈という人に分かれそうな演奏。 スケルツォOp.54:主部はごくオーソドックスで良いと思いましたが、やはり中間部のテンポが遅い・・・
B~C 13. Ye ZiRui(中国) ノクターンOp.27-2:自然な節回し、気品が漂う美しい演奏。 エチュードOp.10-10:右手の各声部の音はよく鳴っている、やや力みや固さがありそうだが、概ね良い演奏。 エチュードOp.10-1:ダイナミックで輝かしい演奏。難しい中間部は完璧というわけにはいかないですが、 良い演奏だと思います。 マズルカOp.24-4:オーソドックスで各モチーフの表情付けは基本に忠実。ただ少し固いかな、とも思いました。 スケルツォOp.20:音の粒立ちも良く切れ味も良い。最初の方にあった脱線や中間部に入る前に コーダに突入しそうになったところはノーカウントに。
A~B 14. Yeo Yoonji(韓国)
2023年ブゾーニ国際ピアノコンクールファイナリスト この人のミスタッチの少なさは天性のものだと思います。女性ながら強靭なテクニックと集中力、体力ですね。 この上位互換に、あのかつてのアルゲリッチがいると・・・目指せアルゲリッチでしょうか。
5月1日前半10時~14時(日本時間:5月1日(木)午後5時~9時)
B 1. Yoo Sung Ho(韓国) ノクターンOp.48-2:主部はダイナミクスと動きを比較的大きくとって表現力豊か。途中、オクターブの下の音を強調するなど芸の細かさ、工夫も。ヒヤッとするミス複数あり。 エチュードOp.10-10:速めのテンポでデュナーミク・アゴーギクともに広く取り、思い切りの良い表現が魅力。 エチュードOp.10-5:右手の粒立ちは残念ながら今一つ。思い切りはよく、やりたいことは伝わる。 マズルカOp.59-3:力強く情熱的でスケールの大きいマズルカ。 スケルツォOp.20:このパワーとスピード感はこのスケルツォの魅力に非常にマッチしている。 ホロヴィッツを彷彿とさせる圧巻の名演。 テンポ、強弱などかなり大きく動かすタイプですが、それがきちんと作品の枠内に収まっていて自然。 ミスタッチは多めですが、思い切りの良さと「言いたいこと」をしっかりと持った人という意味で、 次も聴きたいと思える人です。ただちょっと「うるさい演奏」ではあるかも・・・
B~C 2. Yoon Jeong Hyun(韓国) エチュードOp.10-1:適度にダイナミックで技術的には安定感があるが、音抜けやミスタッチは多少・・・ ノクターン枠でエチュードOp.10-6:この作品の気だるく憂鬱な雰囲気がよく出た演奏だと思います。 エチュードOp.10-2:遅めのテンポで確実性を意識したと思われる演奏。 でもエチュード枠のエチュードは2曲続けて演奏するという規定があるのでは? この曲順は許される? マズルカOp.33-4:この曲にしてはリズムがちょっと固いかな、と思いました。 スケルツォOp.39:基本的には良い演奏だと思いますが、強奏でメタリックで攻撃的な音になる。 技術的な精度はやや粗い・・・
B 3. Bartłomiej Kokot(Poland) ノクターンOp.27-1:細部まで細かいニュアンスを付けたこの洒脱な節回し、センスの高さを感じました。 エチュードOp.10-5:思い切りの良い「黒鍵のエチュード」。即興性があり音楽や躍動する。 エチュードOp.25-5:主部は強いアクセント、メリハリを利かせる。中間部はルバート多め、即興性が強い。 マズルカOp.56-1:主部の楽想の立ち上げ方は柔軟、ルバートのかけ方など、センスが高いと思いました。 例の8分音符の連続部も粒が揃い安定。終結部の流れの作り方も秀逸。 スケルツォOp.31:第2主題の歌わせ方がロマンティック。ルバート、フレージングも即興的でありながら、 なかなかに芸が細かい。コーダは集中力が切れてしまったのが、荒っぽくなってしまい、 最後の右手のF音が鳴らず・・・最後の印象が悪くなってしまいました。 かなりミスタッチの多い人ではありますが、ポーランド人としてはテクニックはそこそこしっかりしている上に、 緩徐な部分の弾き方が秀逸です。 この人、もう一度、聴いてみたいです。
A 4. Yu Yichen(中国) エチュードOp.10-8:速すぎないテンポでやや軽めのタッチで上品で音楽的な素晴らしい演奏。ミスタッチなし。 エチュードOp.10-10:軽やかで上品で音楽的な演奏。技術的にも完璧。 ノクターン枠でエチュードOp.25-7:右手の和音の響きが抜群に良いが、左手の旋律がこの上なく自然に呼吸し 生きた音楽として立ち上がる。強奏の音がダイナミックで美しい。極上の演奏。 マズルカOp.50-3:基本的にオーソドックスですが、音楽が生き生きと立ち上がってくる。 スケルツォOp.31:安易に弾き飛ばさず非常に丁寧な弾き方。華やかさよりも丁寧さを重視した演奏。これも良いと 思います。
B~C 5. Yu Yuewen(中国) マズルカOp.24-4:基本的にソフトで軽いタッチですが、抑揚も十分。模範的な良い演奏。 エチュードOp.25-4:オーソドックスで良い演奏ですが、左手のミスタッチは多い。 エチュードOp.10-1:ダイナミックですが中間部や終結部で音量を抑えるなど音楽表現も。 ノクターンOp.27-1:ルバートはオーソドックスで自然、良い演奏。 スケルツォOp.54:真面目で良い演奏ですが、ミスや不揃いは比較的多く、拍感が甘い感じで 決め手に欠けるような・・・
C~D 6. Zenin Andrey(Individual neutral pianist) 前回からの再挑戦。 マズルカOp.56-1:この曲の夢想的な雰囲気は今一つ出ていないような・・・ 8分音符の粒ぞろいや安定感は今一つ。 エチュードOp.10-5:速いテンポ、自由で即興的な趣の演奏。 エチュードOp.25-4:スマートさよりも抑揚を優先していると思います。 エチュードOp.25-7:かなり大きくテンポを動かし、この曲に宿るやるせない情熱を熱く表現した演奏。 スケルツォOp.31:即興性が強い弾き方。技術的には粗が多い。迫力は十分。
※. Wang Yuhang(中国):再演奏 4月29日後半のセッションでマズルカOp.56-1の例の8分音符の連続部分を演奏中、止まってしまい、 演奏続行不能となり断念して途中で終了という悪夢のような出来事がありました。 コンクール運営側の計らいにより、彼に再チャンスが与えられ、この順で演奏することになりました。 エチュードOp.10-1:あれ?前回の時よりもはるかに上手くてダイナミックなんですけど。 弱音も効果的に使い音楽的に魅力的な作品として聴かせる。これは行ける!と思いました。 エチュードOp.10-2:これも僕の記憶にある一昨日のこの人の演奏をはるかに上回っています。 粒立ちも良く音楽性も抜群。やはりあの時は初めからおかしかったのだと、これで分かりました。 マズルカOp.56-1:主部は闊達なリズムでこの作品の魅力が浮かび上がる。 8分音符の連続、前回止まってしまった部分も問題なく乗り切り、フィニッシュ。 ただこの曲は少し苦手そう・・・この8分音符、何の変哲もないように聴こえるかもしれませんが、 結構弾きにくいんですよ。弾いたことがある人なら分かると思いますけど・・・ スケルツォOp.54:技術的にかなり苦しそう・・・やりたいことは分かるのですが、 音抜け、ミスタッチ多数、脱線あり、音楽が思うようにコントロールできない。 そして中間部で、まさかの演奏停止。悪夢再び・・・ 再チャンスを与えてくれたお礼を言い、退場・・・悲しい。 これを見て、本当に泣いてしまいました。 とても良いもの(素質、才能)を持った人だとは思いますが、コンクールというシビアな世界には向かない とても繊細な人なのだと思います。見た目、真面目そうで誠実そうな人であるだけに、本当に泣きたくなるほど 悲しいですが、コンクール運営側が彼にこの再チャンスを与えてくれたのも、この人の持つ「何か」のなせる業 だと思います。この人はそういうものを持った人なのだと思います。 彼はこの経験を糧にして、これからの人生、頑張ってもらいたい、きっと成功すると僕は信じています。 Good Luck!!
ショパンコンクールの歴史を紐解くと、演奏者に再チャンスが与えられた例は過去にあります。 そう言えば、今回の予備予選の審査員長を務めるヴォイチェフ・シフィタワさんは、この回のショパンコンクールで 第3次予選まで進みながら、体調不良で棄権してしまったとのことで、ポーランド人は本当に残念でたまらない といった様子でした。シフィタワさんの体調が問題なく3次予選で演奏していたら、結果はどうなっていたのか、 タラレバではありますが、どうしても気になってしまいます。 これらのことは、その回のショパンコンクールの様子をまとめたドキュメンタリー番組に収められていますので、 興味がある方はご覧になって下さい。以下、動画を埋め込んでおきます。 この番組、当時ビデオに録画して、擦り切れるほど繰り返し見たもので、細部までよく覚えています。 この番組がこうしていつでも見られるようになったのは、本当にありがたいです。
5月1日後半17時~21時(日本時間:5月2日(金)午前0時~4時)
A 8. Zhang Jacky Xiaoyu(イギリス) ノクターンOp.62-1:柔らかく優しい感触。ルバートや節回しはかなり巧み。 エチュードOp.10-1:輝かしくダイナミック。これぞこの曲の王道の演奏!ブラボー!! エチュードOp.25-4:軽快で速めでありながら、テンポの乱れもなく流れが小気味よい。 マズルカOp.33-4:この曲にしては真面目でオーソドックスですが十分魅力的な演奏。 スケルツォOp.20:恐ろしいほど粒立ちの揃った演奏。鋭さ、軽快さ、激しさ、全ての表現が一級品。 こんなすごいスケルツォ1番、僕は聴いたことがありません。 やっと出てきた。本物の天才。優勝候補の1人と思います。
B~C 9. Zhang Junzhe(中国) ノクターン枠でエチュードOp.25-7:左の旋律をたっぷりと歌わせている、これも良い演奏。 エチュードOp.10-4:概ね良い演奏だと思います。やや不明瞭な部分もあり、最後は少し崩れてしまいました・・・ エチュードOp.25-5:オーソドックスで完成度の高い演奏。中間部のフレージングも自然で良いと思いました。 スケルツォOp.20:十分立派な良い演奏ですが、どうしても先程の彼の超名演が頭にあって、数段聴き劣りしてしまうのは仕方ないですね。これはこの人の不運です。 マズルカOp.24-4:リズムの刻み方は独特。この曲にしてはユニークな演奏。
A~B 10. Zhang Nathaniel(アメリカ) エチュードOp.25-11:十分迫力はありますが右手の音の粒は軽妙でよく揃っています。 もったいないミスタッチはありますが、素晴らしい完成度です。 エチュードOp.25-6:軽やかで素晴らしいタッチ、音の粒も良く揃う。この曲の奏者の中では珍しくほぼ完璧。 ノクターンOp.27-1:主部はルバートは少なめ、節回しはあっさり。少し固いかな、と思いました。 マズルカOp.59-1:オーソドックスで模範的な良い演奏。 スケルツォOp.31:決して鍵盤を叩かない。軽妙で上品、ロマンティック。 これだけ技巧があるのにイージーミスが結構多いのが本当にもったいないです。 技巧がずば抜けているのは間違いないですし、未完の大器の可能性はあると思います。もっと聴いてみたいとは思います。
B~C 11. Zhang Zhiqiao(中国) ノクターンOp.62-2:テンポは非常に遅く、ところどころ「溜め」を作りながら 思い入れたっぷりに弾き進める。やや流れが悪く間延びしているように聴こえますが・・・好みが分かれそうな演奏。 エチュードOp.25-6:若干不明瞭なところはありますが概ね良い演奏だと思いました。 エチュードOp.10-4:非常に速いテンポ、ダイナミックで粒もよく揃っている。惜しいミスタッチ複数。 マズルカOp.33-4:リズムの刻み方は柔らかい感触。テンポルバート多め。即興的な傾向が強い演奏。 スケルツォOp.31:第2主題も柔らかい感触、音色はソフト。 難所は荒削りの弾き方に・・・中間部の最後の方で一瞬止まりかける事故が・・・ミスタッチが多いのが残念。
C 12. Zhao Yuxuan(中国) ノクターンOp.27-2:テンポは速め、装飾音や重音パッセージなどでテンポが速くなる傾向。 音が少し濁っているように聴こえました。緊張のためだと思いますが、弾き急いでいるように感じました。 エチュードOp.10-8:中間部の難所でやや苦しそうでテンポが不自然にぶれるのとミスタッチが・・・ 全体としては悪くないのですが・・・ エチュードOp.25-6:3度のトリルの音が不明瞭でこの曲は苦手そうに感じました。 マズルカOp.59-3:冒頭で目立つミスタッチが・・・やや不安定なまま終わってしまいました。 スケルツォOp.39:丁寧に弾こうという気持ちは伝わってきましたが、実際の演奏は・・・ この人は普段はもっと弾けていたのだと思います。実力を出し切れなかったようで残念です。
B 13. Zhong Yonghuan(中国) ノクターンOp.37-2:重音パッセージは滑らかで流麗。 コラール風の和音は一部で下の旋律部を強調するなど芸が細かい。 この曲のように出場者があまり選ばない曲を選曲するというのは戦略上、有利に働きそうです。 Op.27-2やOp.62-1を聴き飽きた耳に新鮮に響きます。 エチュードOp.10-4:標準的なテンポで、テンポのぶれも少なく安定した適度にダイナミックで良い演奏。 エチュードOp.25-10:主部はペダルを控えめにして純度の高い響きを意識しているように聴こえました。 中間部のオクターブの旋律の節回しも自然で抑制が聴いている。最後の方、少し脱線しかけたのが惜しい・・・ マズルカOp.24-4:ダンパーペダルを控えめにして軽快でリズミカルな演奏。 テンポを比較的大きく動かして細部には濃厚な表情付け。 スケルツォOp.39:主部のオクターブ連続部はテンポや音量を抑え気味にして丁寧な弾き方。 緩徐部も音の粒がよく揃う。最後の方は集中力が落ちたのか、ミスが多くなりちょっと残念・・・
B 14. Zhu Hanyuan(中国) ノクターン枠でエチュードOp.10-3:出だしは遅めのテンポで思い入れたっぷり、情感たっぷりに歌う。 中間部の入りも柔らかく力みがない。叙情豊かな良い演奏。 エチュードOp.10-8:速めのテンポで軽快で上品な演奏。 エチュードOp.10-11:アルペジオの各構成音のバランスはよく、テンポルバートを多用し、 旋律を流麗に聴かせていて良い演奏だったと思います。 マズルカOp.24-4:テンポをかなり動かして各楽想の表情付けを濃厚にした演奏。 遅い部分はかなり遅く、好みが分かれる演奏と思いました。 スケルツォOp.31:ダイナミックでロマンティックな演奏。細部がやや粗くなるのが残念・・・
5月2日前半10時~14時(日本時間:5月2日(金)午後5時~9時)
B~C 1. Okui Shio(奥井 紫麻、日本) ノクターンOp.27-1:この曲のほの暗くシックな雰囲気が自然に伝わる上品で気品のある美しい演奏。 エチュードOp.10-8:とても良い演奏ですが、中ほどに比較的大きなミスの連鎖が複数ありました。もったいない・・・ エチュードOp.10-10:音楽的には素晴らしい演奏。右手の音はやや不明瞭(特に第5指の外声部)なのが惜しい・・・ マズルカOp.24-4:この作品のオーソドックスを踏まえながら、細部には研究のあとも見られる、興味深い演奏。 スケルツォOp.31:ロマンティックで華やかさも十分。技術的にも丁寧で素晴らしい演奏でした。 この人は日本人女性としては手が大きくて指も長いですね。 スケルツォ2番のこの素晴らしい演奏はこの恵まれた条件があってこそでした。 この1曲だけ取れば通過でしょうけど、エチュード2曲の出来がどう響くかでしょうね。 個人的にはもう一度聴きたいのですが・・・
C 2. Zhu Harmony(カナダ) ノクターンOp.27-1:音楽の流れは自然で良いと思いましたが、音が軽くてあまり深みがない感じが どうしても気になりました。主部の再現部から終結部に向かう部分で 暗譜が飛んだのか、かなり大きな脱線事故がありました。 エチュードOp.25-5:基本的に良い演奏。中間部はあまり盛り上がらない、もっと朗々と歌わせる演奏が 好きなので、ちょっと物足りない印象。 エチュードOp.10-12:情熱的で迫力もそこそこあり良い演奏。ただ左手の1つ1つの音に迫力がない感じ・・・ マズルカOp.33-4:この曲のオーソドックスを踏まえた妥当で音楽的な演奏。 スケルツォOp.54:技術的にもよく音楽的にも妥当で良い演奏。もう少し1つ1つの音に芯があれば・・・ この人は物理的な音量が足りないと思いました。体格や筋力ってピアノを弾く上で結構大事ですね。
B~C 3. Zhu Jingting(中国) エチュードOp.10-4:テンポは速めだが音の粒は揃い小気味よい、技術的に完璧な良い演奏。 最初のミスの連鎖がなければ・・・ エチュードOp.25-6:これは技術的にほぼ完璧に近い。この3度の難曲をここまで弾ける人は非常に少ない。 これはものすごい加点要素。 ノクターンOp.62-1:節回しはよく練られていて音楽的な演奏だが、やや考えすぎのような気も・・・ マズルカOp.33-4:この曲のオーソドックスを踏まえながら、テンポを大きく動かしている。 やや恣意的な感じもしますが興味深い演奏です。 スケルツォOp.54:テンポの軸がしっかりして、技術的にもかなり高いレベルです。このスケルツォは良い演奏。
B~C 4. Aćimović Vladimir(セルビア) マズルカOp.30-4:まろやかな深い音色、この曲にしては柔らかい感触の演奏。こういう演奏もいいですね。 エチュードOp.10-8:非常に速いテンポですが音の粒はきれいに揃っていて完成度が高い。 中間部の難所で少し崩れ気味になったのがもったいない・・・ エチュードOp.10-10:ロマンティックで美しい流れの演奏ですが、右手の音がもう少し明瞭に出ていると 印象が格段に良くなるのに、と思いました。 ノクターンOp.62-1:柔らかい節回しで流れが自然で美しい演奏。 スケルツォOp.54:悪くはないが、この曲の演奏に求められる連続和音のキレや 速いパッセージの軽快さは今一つ。
B~C 5. Amako Yuki(尼子 裕貴、日本) ノクターンOp.62-1:旋律の出だしの節回しは柔らかく耳に心地よい。デュナーミクを大きく取り 朗々と歌わせる。 エチュードOp.10-4:速めのテンポで音の粒もきれいに揃い、音の芯もしっかりしている。 ダイナミックでもあり、良い演奏。 エチュードOp.25-10:ダイナミックで良い演奏。主部のオクターブ進行の最後の方で少し乱れたのがもったいない。 マズルカOp.50-1:軽快でリズム感が良いと思います。アーティキュレーションも細部まで 細やかな神経がよく行き届いて良い演奏だと思いました。 スケルツォOp.39:オクターブ連続部は速めのテンポで小気味よいが、もう少し丁寧さがある演奏の方が好きです。 コーダはアグレッシブ、超絶技巧系の弾き方。
A~B 6. Bao Yanyan(中国) ノクターンOp.27-2:ルバートは少なめ、控えめで上品で丁寧な節回し、かなりセンスの良い演奏だと思います。 エチュードOp.10-8:ミスがなく完璧な演奏。 パッセージ中、右手の第1指を強調するなどの工夫を施す余裕もある。 ところどころテンポを落とし音楽的な魅力を追及した演奏。 エチュードOp.10-10:ミスがなく完璧。テンポが伸縮自在で生きた音楽として立ち上がる。 マズルカOp.59-1:テンポ、強弱はそれなりに動かすが全てが自然で美しい流れ。 スケルツォOp.31:技術的な精度が非常に高く、中間部後半のクライマックスやコーダなども 全ての音を丁寧に扱っている。適度な華やかさもありロマンティックでもあり素晴らしい演奏。 この人のミスタッチの少なさは天性のものです。こういう人は強いですね。
C 7. Basista Michał(ポーランド) エチュードOp.10-12:情熱的でドラマティック、技術的にはやや粗が・・・ エチュードOp.10-7:右手のミスタッチ、音抜けだけでなく和音のバランスが・・・。 ノクターンOp.27-2:オーソドックスで基本的に良い演奏だと思いますが、つまらないミスタッチが多いのが 印象を悪くしていました。 マズルカOp.59-3:中間部後半と終結部に拍感が不安定になる箇所があり、全体に間延びしている印象でした。 スケルツォOp.39:かなり自由に思いのままに弾いていますが、技術的な粗がどうしても耳に付きました。
5月2日後半17時~21時(日本時間:5月3日(土)午前0時~4時)
B~C 8. Bourdoncle Nicolas(フランス) ノクターンOp.62-2:中庸のテンポで比較的あっさりしたルバート、中間部は速めのテンポで情熱的でダイナミック。 エチュードOp.10-5:ダイナミックで輝かしく華やかな「黒鍵のエチュード」。 エチュードOp.25-10:オクターブの進行部は鍵盤を叩いていないが、 物理的な音量はものすごく、ピアノが完全に鳴りきっている。パワフルな熱演。 マズルカOp.59-1:出だしは標準的なテンポでオーソドックスな良い演奏。 中間部は感興豊かで熱いパッションがほとばしる。 スケルツォOp.39:オクターブ連続部はパワフルで情熱的。和音はズシリと重くダイナミック。
C 9. Bürki Simon(スイス) マズルカOp.59-3:この曲にしては軽いタッチの柔軟な出だし、軽くて上品。あっさりした感触の演奏。 エチュードOp.10-8:軽いタッチの演奏。レガートというよりもレッジェーロに近い。 中間部に少し大きめのミスの連鎖、終結部へのつなぎの部分でも大きなミスの連鎖が・・・ エチュードOp.25-4:悪くはないのですが、ミスタッチ、音抜けがかなり・・・ ノクターンOp.48-1:出だしは柔らかく軽めのタッチで上品。中間部後半にかけてエンジンがかかり始める。 勢い余って全く違う和音を弾いてしまうなど、リスクを冒して自分の演奏を追及する姿勢と その情熱的で迫力ある演奏に心打たれました。 スケルツォOp.39:オクターブ連続部はテンポが速い、突進系。 キラキラと駆け下りてくるパッセージの速度も速いが音抜け、ミスも多い・・・
B~C 10. Candotti Michelle(イタリア) 前回からの再挑戦。 ノクターンOp.48-1:弱めの音でオーソドックスな出だし、中間部後半からの情熱的な和音の連続は 丁寧でありながら十分ダイナミックで良い演奏。 マズルカOp.30-4:適度にリズミカル、プラルトリラーや装飾的パッセージの弾き方は丁寧、良い演奏。 エチュードOp.10-8:技術的に十分。ミスタッチも少なく音楽的にも妥当で美しい演奏。 エチュードOp.10-10:流れが自然でロマンティックで良い演奏。中間部で脱線しかけたが上手く立て直す。 スケルツォOp.31:ロマンティックで良い演奏だと思いますが、中間部後半の難所は荒削りに・・・ 全体的に今一つ決め手に欠ける印象・・・
A 11. Cen Zhiqian(中国) エチュードOp.10-4:軽快なテンポで音の粒も揃っていて良い演奏。目立ったミスが数カ所ありましたが・・・ エチュードOp.25-4:歯切れが良くテンポも小気味よい。左手の音抜けは数カ所ありましたが・・・ ノクターンOp.27-1:主部の旋律のニュアンスの付け方、彩り方は控えめでありながら、ロマンティックで 音楽的、中間部の情熱的な弾き方も有無も言わせない説得力がある。 マズルカOp.59-3:主部は熱いパッションに満ちた弾き方、中間部は感興豊かでリズミカル。 この曲はこういう演奏が好きです。 スケルツォOp.31:和音の強奏の音がきれいに鳴っている。 第2主題の旋律の節回しが秀逸で、ロマンの香気が立ちのぼる。 難所もパッセージや和音がきれいに鳴る。テクニックの筋が抜群。 この人、すごく若そうなんですけど、天才的ですね。 テクニックも音楽性も筋が良すぎますし、演奏に華があります。 まだまだ伸びしろもありそうですし、すごいです。 ちょっと甘いかもしれませんが、女性ピアニストで初めての評価Aを付けます。
A 12. Cha Junho(韓国) ノクターンOp.48-1:深くて芯のある音色、良い出だし・・・でしたが何でもないところで違う音を出して 脱線しかけましたが事なきを得ました。中間部後半からは和音のバランスもよく、 ドラマティックで情熱的で素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.25-11:こんなに速いテンポで本当に大丈夫なのかと心配になりましたが、 心配無用、全く破綻せず最後まで弾き切ってしまいました。自信があったのでしょうね。 完全に完璧というわけにはいきませんでしたが、素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-5:技術的に完璧にコントロールされた演奏。中間部は比較的冷静で 各声部の音量、バランスを完璧にコントロール。 マズルカOp.33-4:この曲の普遍的な演奏、装飾音、付点音符の処理など完璧。 スケルツォOp.20:驚くべき音の粒立ち、歯切れの良さ、気迫・・・ このスケルツォ1番も規格外です。圧巻の名演奏。 この超絶技巧と鉄壁のコントロール力はものすごく大きな武器、魅力です。 ショパンには向かないかもしれませんが、 エチュード、スケルツォでこれだけ卓越した精度の高い技術を示したわけですから、 最初のノクターンの大きな凡ミスは帳消しにしたいと思います。 これも甘いかもしれませんが、評価Aを付けます。
A~B 13. Chang Kai-Min(台湾) 前回からの再挑戦。前回、ノクターンOp.48-1で素晴らしい演奏を聴いて注目していた人です。 マズルカOp.30-3:比較的テンポを遅めにとって細部に細かい表情を付け丁寧に処理。良い演奏。 エチュードOp.25-5:比較的冷静な演奏。中間部はやや遅めのテンポで盛り上げ方も冷静。やや固いか。 エチュードOp.10-4:音の粒立ちも良く目立ったミスタッチなし。良い演奏。 ノクターンOp.48-2:主部の旋律には各音に細かいニュアンスを付け、全体としての流れの良さにも 配慮が行き届いた、なかなか芸が細かい演奏。 スケルツォOp.20:音の粒立ちもよく端切れも良く相当、秀逸な演奏ではありますが、 先程の彼の超名演にはやや引けを取ってしまうのはやむを得ないと思います。 この演奏順はこの人の不運でした。 前回はテクニック不足で完全に音楽性勝負で決め手に欠ける状態でしたが、 4年間で技術面はかなり向上した印象です。 でもAランクには届かないですね。
A~B 14. Chen Xuehong(中国) 前回からの再挑戦(前回は2次予選まで進出)。 深くて芯のある良い音色。柔らかくて格調高い節回し、装飾音や重音のパッセージでもテンポの軸が全くぶれない。 気品があり格調高い極上のノクターン。 エチュードOp.10-2:やや速めのテンポ、音の粒はきれいに揃い、ミスタッチゼロ。完璧。 エチュードOp.10-4:音の粒はきれいに揃う、明らかなミスなし、ダイナミックで素晴らしい演奏。 マズルカOp.24-4:躍動感は控えめにして、リズムを丁寧に刻み楽想1つ1つを丁寧に扱うことによって この作品の本来の魅力が自然に立ちのぼるような演奏。やや固さはありますが、こういう演奏も良いですね。 スケルツォOp.54:やや遅めのテンポで1つ1つのモチーフを丁寧に扱った演奏。 それによりこの作品が本来持つ軽快さは若干損なわれてしまっていますし、 ややもっさり感が・・・でも、これはこれで十分良い演奏。テンポの軸がぶれずにしっかりしているのもさすが。 思うんですけど、最近、この曲をむやみやたらに速いテンポで弾き飛ばす人が多いような気がします。 昔はこれくらいのテンポが標準だった時代もあったわけですし・・・
B 15. Hyo Lee(韓国)
エチュード嬰ハ短調Op.10-4 ノクターンOp.27-1:ルバートは少なめですが、センスの良い控えめな節回しがこの曲の旋律はハーモニーの 特徴(ほの暗さ)によく合っていて良い演奏。 エチュードOp.25-6:基本的な動きは良いですが、不明瞭であったりもつれた部分もありと、惜しいところがありました。 エチュードOp.10-4:ダイナミックでミスも少なく良い演奏。 マズルカOp.59-1:出だしのリズムはやや固いかなと思いましたが、弾き進むにつれて感興豊かな演奏に。 スケルツォOp.54:テンポの軸がぶれず安定している。軽快さはあまりないが、基本に忠実で この曲の良さが自然に引き立つ良い演奏。適度な華やかさもある。
5月3日前半10時~14時(日本時間:5月3日(土)午後5時~9時)
A~B 2. Chen Yiyang(中国) エチュードOp.25-7:節回しはオーソドックス、ルバートは自然で流麗。極めて上質な演奏。 エチュードOp.10-4:音の粒は細かく良く揃う、音の質は男性としてはやや軽め、ミスタッチほぼゼロ (最後の右手の動きでやや不明瞭な部分があったくらい)。 エチュードOp.25-4:軽快で小気味よく流れも良い。ミスタッチは左手の低音、1カ所だけ(と思う)。 マズルカOp.59-1:オーソドックスで質が高い。中間部も弾き急がずフレーズの歌い方が丁寧。 この曲の模範的な、良い演奏。 スケルツォOp.54:テンポの軸はしっかりしている。真面目な弾き方。 明らかなミスは少ないが、細かいパッセージの粒の揃い方は完璧ではない。 コーダ手前の和音が長く続く部分で少し乱れあり。 今回の出場者でこの曲を弾いた人の中では上位には入りそう。 正統派ですね。ミスタッチがかなり少ないです。
A~B 3. Chen Zixi(中国) マズルカOp.50-3:各楽想に細かい表情を付けているが、自然でオーソドックス。模範的な良い演奏。 エチュードOp.10-5:ダイナミックで輝かしい演奏。音の粒もよく揃い、特に高音の輝きが秀逸。 エチュードOp.25-6:3度の動き、音の粒はよく揃っている。技術的にほぼ完璧な演奏(一部、不明瞭なところは あったが)。 ノクターンOp.62-1:ところどころテンポを落として思い入れの強い表現があるが、 基本はオーソドックスで、節回しは巧み、柔らかい感触を意識した良い演奏。 スケルツォOp.39:オクターブ連続の主部はかなりハイテンポでダイナミック。 高音から駆け下りてくる音型の部分は遅めのテンポで丁寧。そのコントラストが新鮮。 強奏で音がかなり攻撃的に聴こえるのですが、実際、会場ではどう響いているのか、気になります。 全体を通して、高水準で安定した良い演奏だと思いました。
A~B 4. Cheong Hoi Leong(中国/ポルトガル) ノクターンOp.55-2:拍に対して右手の打鍵のタイミングが少し遅め、 それが決して鼻につくことはなく至って自然で、優しい響きを作ることに成功している。 ロマンティックで優雅で良い演奏。 エチュードOp.10-10:軽めのタッチで上品でロマンティック、音楽性豊かで良い演奏。 エチュードOp.10-5:軽快でよく粒の揃った上質な「黒鍵のエチュード」。 マズルカOp.59-1:付点リズムは優しく刻む。上品で優雅なマズルカ。 スケルツォOp.31:優しく優雅でロマンティックな演奏。速いパッセージでも軽めのタッチ。 強奏でも決して鍵盤を叩かない。コーダも丁寧。良い演奏。
C 5. Chitanava Mariam(ジョージア) スケルツォOp.39:オクターブの連続する主部はテンポを抑え確実な打鍵を心がけている。 音が固く感じる。強奏で音が詰まるように聴こえる。マイクのセッティング、コンディションが変わったか。 高音から駆け下りてくる音があまり輝かない。コーダは遅めのテンポ。 マズルカOp.33-4:リズムの伸縮が大きく躍動感がある生き生きとした良い演奏。 今回この曲を演奏した出場者は、優等生的で教科書的な演奏が多かったですが、 この演奏はそれとは違った魅力があると思いました。 エチュードOp.25-7:テンポをかなり大きく動かしてこの曲に宿るやるせない情熱を ストレートに表出した演奏。この辺り、中国、韓国、日本といったアジア人との違いを感じますね。 エチュードOp.10-10:ロマンティックで音楽性豊かな良い演奏ですが、右手の音が不明瞭、 ミスタッチや引っ掛け多数・・・これはもったいない・・・ エチュードOp.10-8:良い演奏だと思いますが、難しい中間部でテンポが不自然に動く部分が気になりました。 Op.10-10もOp.10-8も出場者は皆、当たり前にそつなく弾いていますが、本当は難しい曲なんですよ。 音楽的には魅力はありますが、技術面を考えると通過は厳しいのではないかと思います。
B~C 6. Cho Hyena(韓国) マズルカOp.24-4:この曲のオーソドックス、模範的とも言える良い演奏。 エチュードOp.25-5:丁寧でとても良い演奏。中間部の抑揚も自然、どの部分も細やかな神経が行き届いている。 エチュードOp.10-5:軽めのタッチで丁寧な良い演奏。コーダでかなり大きな乱れが・・・もったいない・・・ ノクターンOp.62-1:フレーズを短めに区切ってその中でテンポを細かく動かす。 「言いたいこと」を言う代償として流れが悪くなる・・・そのバランスが難しいですね。 基本は美しく良い演奏だとは思います。と思ったら、終結部、左手の低音で全く違う音を弾いてしまい、 動揺してテンポが不自然に速くなってしまいました。残念・・・ スケルツォOp.31:強奏でも芯のある良い音が出ている。第2主題の歌い方は自然でロマンティック、 とても良いと思います。ただ目立ったミスだけでなく、 細かい引っ掛けやミスタッチを含めるとかなりの数に・・・ このタイプの奏者にしてはミスタッチが多いのが気になりました。 通過はちょっと厳しいでしょうか。
C~D 7. Collard Raphaël(フランス) ノクターンOp.48-1:落ち着いた出だし、音色は固め。 中間部後半からはかなり大きく自由にテンポを動かしドラマティックに展開。 エチュードOp.10-4:速めのテンポ、一部でテンポが落ちる、細部はやや粗いが明らかなミスタッチは少なめ。 エチュードOp.25-4:テンポ、流れは小気味よいが左手のミスタッチ多数・・・ マズルカOp.59-1:テンポをかなり自由に動かした演奏。中間部の後半はやや弾き急ぎのような気も・・・ スケルツォOp.39:主部のオクターブが連続する部分はテンポが不安定、やや強引さが目立つような気も・・・ 高音から駆け下りてくる音型は音抜け多く粒が揃わない・・・ 最後のスケルツォがちょっと・・・ 普段は弾けているのだと思いますが、この人もかなり緊張していたのでしょうか。
5月3日後半17時~21時(日本時間:5月4日(日)午前0時~4時)
C 8. Cooper Diana(フランス/イギリス) マズルカOp.30-3:力みがなく柔軟で自然な良い演奏。 ノクターンOp.27-2:落ち着いたテンポで自然な節回し、良い演奏だと思います。 エチュードOp.10-8:音の粒は揃い、軽快で良い演奏。中間部で少し乱れ、苦しそう・・・ エチュードOp.25-5:付点音符のタッチが曖昧。中間部の入り、右手が3連符ではなく16分音符の音型(2回目に 登場するときの音型)を弾いてしまうという脱線事故が・・・ スケルツォOp.54:概ね良い演奏だと思うのですが、切れ味が今一つなのと、 細かいパッセージで音抜けが多いのが気になりました。
B~C 9. Deng Athena(カナダ) マズルカOp.50-3:オーソドックスで美しい演奏、装飾音や付点音符の扱い方がとても丁寧。 エチュードOp.10-12:左手の動きは正確で粒もよく揃う。右手のオクターブの旋律や和音は 力強く音も輝いている。素晴らしい演奏。 エチュードOp.10-7:美しい音色で音楽的に良い演奏と思いましたが、音抜けが多めなのが気になりました。 今回、この曲を選んだ人で完璧に弾けている人は1人もいないです。 この曲は避けた方が無難だと個人的には思います。 ノクターンOp.27-1:控えめで上品なルバート。ただこのかなりの弱音が会場でどのように聴こえているかは 気になりました。 スケルツォOp.20:音の粒は良く揃っているが、1つ1つの音の迫力が不足していると思います。 これは女性ピアニストの決定的なハンディ・・・ 今大会(予備予選)、既にこの曲のド迫力の超絶技巧的名演が男性奏者2人出ているので、 それと比較すると、どうしても聴き劣りしてしまいます。 女性ならスケルツォは2番か4番で勝負、というのが鉄則だと思います。 それかピアノコンクールもスポーツ同様、男女別に分けるべきではないかというのが個人的意見です。 こんなに女性に不利な競争はないとも思っています。
B 10. Du Peida(中国) ノクターンOp.48-1:主部はあっさりとした感触。中間部後半も強奏の中でもデュナーミクを付けていて 陰影に富んだ彫の深い演奏。 スケルツォOp.31:ダイナミックでありながら、第2主題の歌わせ方はニュアンスに富んでいてロマンティック。 難所も技術的に全く破綻がなく素晴らしい演奏。 マズルカOp.24-4:リズムのメリハリの付け方がユニーク。 エチュードOp.10-10:技術的には優れていますが、やや弾き急ぎのような気も・・・もう少し落ち着いた ロマンティックな演奏が好みです。 エチュードOp.25-11:ダイナミックな「木枯らし」。もう少し軽いタッチの演奏が好きですが、これはこれで 十分立派だと思います。
B 11. Fan YuAng(中国) ノクターンOp.27-2:控えめなルバートで品の良い演奏。装飾的パッセージありのバリエーションを採用。 マズルカOp.33-4:適度にリズミカル、自然で質の高い演奏。 エチュードOp.25-5:音量は控えめにして上品さを際立たせた演奏。中間部の最初の方にやや大きなミスの連鎖があったが、音楽の流れは自然で美しい。 エチュードOp.10-5:テンポは速すぎず、軽快で上品な「黒鍵のエチュード」。 スケルツォOp.39:主部は安易に弾き飛ばすところがない。細部まで丁寧な音楽作り。 と思ったら、コーダはいきなりガンガン系、荒削りに・・・惜しい。 欲を言えばコーダもテンポを抑えて丁寧に弾いてほしかった。
B 12. Fang Zhongjin(中国) エチュードOp.10-12:ダイナミックで情熱的な「革命のエチュード」。右手の和音、オクターブの強奏が ややメタリックに聴こえるのはマイクのせいでしょうか。 エチュードOp.10-11:アルペジオは粒が揃って美しいハーモニーを作り出す。かなりルバートをかけているが、 メロディーラインは流麗で美しい。 ノクターンOp.48-1:出だしはルバート多め、音色は深くよく伸びる。 中間部以降のクライマックスも、テンポをかなり大きく動かすが音量は控えめにして、 その中でダイナミックレンジを変化させている。 スケルツォOp.31:第2主題はテンポルバートを多用し即興性の強い弾き方。 マズルカOp.33-4:この人の自由な弾き方はこの曲にはプラスの方向に働いているように感じました。 かなりテンポを自由に動かすタイプ、即興性が強くテンポの軸もややぶれるのが気になりました。 面白いとは思いますが、僕にとってはちょっと苦手なタイプかも・・・
B~C 13. Gao Yang(中国) マズルカOp.50-3:基本に忠実で真面目なマズルカ演奏。この曲にしてはダイナミックな演奏。 スケルツォOp.31:第2主題のルバートは良いと思いますが、左手の1拍目の音価を長く取るという傾向(癖?)が どうしても気になってしまいました。この人も強奏の音がメタリックで攻撃的になる傾向がありますね (マイク、スピーカー越しなので会場でどう聴こえているかは分からないですが)。 ノクターンOp.27-2:伸びのある美音、ルバートはやや恣意的なところがありますが、悪くないと思います。 エチュードOp.25-10:主部にちょっとした弾き直しが・・・これもやや攻撃的な音色に聴こえました。 中間部のオクターブの旋律のルバートは控えめ。 エチュードOp.25-11:ダイナミックで良いと思いますが、技術的にはやや粗が多い・・・
A 14. Gao Yang (Jack)(中国) マズルカOp.59-1:節回しが柔らかくて上品。音の間にシックな優しさが・・・このマズルカ、いいですね。 ノクターン枠でエチュードOp.10-3:主部の旋律のフレージングは自然でありながら 細部はなかなか芸が細かい。中間部、聴きなれない音があり「脱線?」と思いましたが、 そうではなさそうです。 エチュードOp.10-8:音の粒は揃っていて軽快、かなり緻密で細かい。音楽的にも純度が高く完成度が高い。 エチュードOp.10-10:右手の各声部の音は明瞭に出ていて、流れも自然・流麗でロマンティックな演奏。 非常に美しく感動的な名演奏。 スケルツォOp.31:ロマンティックで上品な演奏。ダイナミクスもありますが、打鍵の強さは控えめにして、 美しい音色を出すことを優先。適度な華やかさもありバランスの良い演奏。 この人は背丈もあり手も大きく指も長いですね。 見かけによらず繊細できめ細かい演奏をする人ですね。この人も評価Aを付けます。
5月4日前半10時~14時(日本時間:5月4日(日)午後5時~9時)
B 1. Gi Inho(韓国) ノクターンOp.27-2:比較的大人しめ、ルバート少なめ、作品に語らせるスタイルの演奏。 自然で気品があり美しい。 エチュードOp.10-10:右手の分散和音のバランスがよく流れも淀みなく美しくロマンティック。 エチュードOp.10-12:左手の音の粒立ちは揃っている。右手の和音、オクターブの音色も良い。 完全に完璧というわではないですが。 マズルカOp.24-4:オーソドックスで洗練された良い演奏。 スケルツォOp.31:流麗でロマンティックで良い演奏。細部も丁寧。 ところどころつまらないミスタッチがあり、もったいないです。
A~B 2. Gong Shuguang(中国) ノクターンOp.27-1:弱音が弱め、ルバートは少なめ、自然な流れ、良い演奏。 エチュードOp.10-5:輝かしく軽妙、上品で丁寧な「黒鍵のエチュード」。 エチュードOp.10-10:出だしから軽いタッチでペダル少なめ、あっさりした感触。 流麗さよりも軽さを意識した演奏。 マズルカOp.56-3:細切れな楽想に適切な表情付けをして上手くまとめている。 終結部をダイナミックに情熱的に弾くところがかなりユニーク。 全体としてはこの作品の規範に沿ったオーソドックスな演奏。 スケルツォOp.54:この曲特有の軽快さがあり、速いパッセージの粒もよく揃っている。 テンポの軸も全くぶれない。中間部のフレージングも上品でセンスが高いと思います。 今回の予備予選でこの曲を選んだ人の上位一握りには確実に入ると思います。
B 3. Guo Yiming(中国) ノクターンOp.62-1:主部は速めのテンポ、ルバート多め。比較的自由度が高いが、 この曲の魅力も十分引き出していて良い演奏。 エチュードOp.10-8:軽快で音の粒も良く揃っている。良い演奏。 エチュードOp.25-6:速めのテンポ。概ね良い演奏。ところどころ乱れはありましたが 乱れの性質からして、普段は弾けていそうです。 マズルカOp.41-1:音楽性豊か。強奏の中でも抑制のきいた打鍵、強音の弾く分けが巧み。 スケルツォOp.20:音の粒立ちが良く切れ味も鋭い。適度にダイナミック。
B~C 5. Hsieh Wei-Ting(台湾) ノクターンOp.62-1:適度なテンポのゆらぎを入れて上品に歌う。 ゆっくりたゆたう音が夢想的な響きを作り出していて美しい演奏。 トリルの連続部で聴いたことがない音を弾きましたが、そういう版があるのでしょうか? マズルカOp.59-3:適度にリズミカルで細かい部分にも神経が行き届いている。 エチュードOp.25-4:やや遅めのテンポですが適度に軽快で良い演奏。左手の低音のミスタッチは数カ所あり。 エチュードOp.10-5:適度に軽快で良い演奏。音の輝き、華やかさは今一つでしょうか・・・ スケルツォOp.20:音の粒は比較的よく揃っているが、1つ1つの音に迫力や存在感があまりなく、 キレのようなものは今一つか・・・よく弾けていて良い演奏ではあるんですけど・・・ 何度も言いますが、これは女性奏者の圧倒的ハンディですね。 曲と曲の間に長めのインターバルを取り、ここを絶対に通過したいという強い気持ちが伝わってきました。 演奏は良いんですけど、今一つに決め手に欠ける印象で、今回の他の出場者のレベルの高さを考えると、 通過は厳しそうかな、と思いました。
B 6. Hu Xiaoyu(中国) ノクターンOp.62-1:節回しは丁寧で1つ1つの音に細かいニュアンスを付けているが流れも損なわない。 全体として美しくよくまとめられた良い演奏。 エチュードOp.25-6:技術的にはよく弾けている部類。完璧ではないですけど・・・ エチュードOp.10-1:ダイナミックで輝かしい演奏。惜しいミスタッチや引っ掛けは数カ所ありましたが・・・ このような難曲2曲を果敢に選択する気概は買いたいですね。 マズルカOp.41-4:リズミカルで各楽想の表情付けもよく練られており、ダイナミックでもあり、 完成度の高いマズルカ演奏。 スケルツォOp.39:主部のオクターブ連続部はむやみにテンポを上げず、タッチを正確にコントロール、 丁寧な弾き方。緩徐部の和音の弾き方に細かいニュアンスを付け、音楽的表現を強く意識しているのが 伝わってくる。ただこのタイプの演奏にしては惜しいミスタッチが結構多い・・・
A~B 7. Ignatov Hasan(ブルガリア) ノクターンOp.48-1:ルバートは少なめでテンポの軸はぶれない、節回しは自然。 中間部後半からもむやみに盛り上がらず、テンポ・音量をコントロールして聴かせる。センスの高そうな演奏。 エチュードOp.10-5:技巧だけでなくアゴーギク・デュナーミクも広く取り音楽的な表現も心がけた、 音楽的レベルも高い演奏。ミスタッチゼロ。 エチュードOp.10-11:アルペジオの音量のバランスが良く、メロディーラインが美しくつながり、 適切なルバートと強弱で流麗でロマンティックな演奏を作り上げる。ミスタッチゼロ。 マズルカOp.30-3:各楽想を丁寧に扱い巧みに陰影をつけている。良い演奏だと思います。 スケルツォOp.31:強奏でも鍵盤を叩かない、品のあるフォルテが出ている。 テンポルバートやデュナーミクに独特の品がある。テクニックの精度も高い。 中間部後半やコーダも速さと正確さが両立。素晴らしい演奏。 この人はミスタッチがものすごく少ないですし、技術的な精度がかなり高いです。 生粋のヨーロッパ人出場者の中でトップレベルの上手さですね。 エチュードでもっと難易度の高いものを選曲してノーミスで 美しく弾き切れていれば、評価Aを付けていたと思います。
A~B 8. Ignatov Ibrahim(ブルガリア)
あれ??先程の人と瓜二つなんですけど・・・同じファミリーネーム。まさか兄弟?双子? ノクターンOp.27-2:ルバートは極めて自然。流麗で上品で格調高いノクターン。 エチュードOp.10-12:ダイナミックで情熱的でありながら、細部まで丁寧な素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-5:タッチが丁寧で上品。中間部の旋律の歌わせ方もよく練られており美しい。 マズルカOp.33-4:付点音符やプラルトリラーのような装飾音など細部を丁寧に扱っている。 全体としてはオードソックスな良い演奏。 スケルツォOp.39:ダイナミックですがタッチは丁寧で極めて正確にコントロールされている。 高音から駆け下りてくるキラキラとした音型も粒が揃っている。 コーダもダイナミックでありながら技術的には正確で丁寧・・・これはすごい。
この人も先程の人に負けず劣らず上手いです。 ここは間違いなく通過でしょうが、この後、ステージが進行するに従い、 限界が見えてくるのか、それとも最後まで突き進んで、入賞を果たすのか、 現時点では全く判断がつかないです。
5月4日後半17時~21時(日本時間:5月5日(月)午前0時~4時)
B~C 9. Imai Riko(今井 理子、日本) ノクターンOp.48-1:出だしはルバート少なめ、固いかな・・・ 中間部後半以降の和音の連続は、旋律を担う一番上の音が出ていない部分あり、 緊張のためだと思います。 マズルカOp.24-4:この作品のオーソドックスを踏まえながら独自の味付け。 スケルツォOp.54:テンポの軸はしっかりしていて音の粒も比較的揃っている。 この曲にしてはリズムがやや重い感じですが、なかなか良い演奏。 エチュードOp.10-8:速めのテンポ、音の粒は揃っていますが、中間部で少し崩壊、少し苦しそう・・・ ミスタッチはそれなりに・・・ エチュードOp.25-10:主部のオクターブ進行は技術的に良好(完璧ではありませんが)、 中間部のオクターブの旋律のアーティキュレーションも良いと思いました。 スケルツォ4番は良い演奏だと思いましたが、他の曲の失点が大きそうで、 通過は厳しいのではないかと思いました。
B~C 10. Inazumi Hina(稲積 陽菜、日本) ノクターンOp.9-3:フレージングが柔らかい。テンポルバートが自然で流麗。 各フレーズに濃厚な表情付けをしているが、自然で全く嫌味にならない。質の高い演奏。 エチュードOp.10-10:各声部が独立して明瞭に聴こえる。 テンポルバートも抑揚も自然、ロマンティックで素晴らしい演奏。 エチュードOp.10-5:輝かしく軽快で質の高い演奏。 マズルカOp.24-4:テンポ、リズム、抑揚などかなり広く取り、説得力のある演奏と感じました。 スケルツォOp.54:軽快でテンポの軸はしっかりしている。音の粒も揃っている。 適度に華やかで質の高い演奏。 最後のスケルツォ4番が特に良いと思いました。 音が伸びない感じがするのは女性のハンディでしょうか。
B~C 11. Ishida Seika(石田 成香、日本) マズルカOp.59-1:伸びのある良い音色。落ち着いた出だし、やや固いかな、と思いましたが、 「間」を取って丁寧な弾き方。中間部後半はかなり情熱的。かなりテンポの幅が大きい。 エチュードOp.25-4:軽快なテンポで小気味よい。左手のミスタッチ、最後の方で左手ミスタッチの連鎖、惜しい。 エチュードOp.10-5:輝かしく軽快、適度にダイナミック、良い演奏。 ノクターンOp.55-2:1つ1つの音に細かいニュアンスを付けるだけでなく、音と音の「間」も大切に、 という意識が伝わってくる。丁寧な表情付けがこの曲のロマンティックさを自然に引き出していると思いました。 スケルツォOp.54:速いパッセージの音の粒はよく揃っている。テンポも安定している。適度に軽快。 中間部始まったばかりの左の伴奏音型で大きな脱線が・・・ それを抜きにすれば、このスケルツォ4番は秀逸。 全体的に良い演奏ではありますが、他の出場者のレベルの高さを考えると、 通過はかなり厳しいでしょうか。 ただ音色がよく、最後のスケルツォ4番はかなり良い演奏でしたので、ワンチャンあるでしょうか。
B~C 12. Iwai Asaki(岩井 亜咲、日本) マズルカOp.50-1:マズルカリズムを丁寧に刻み細やかな表現を実現した良い演奏。 エチュードOp.10-8:主部は音の粒が揃い軽快。中間部の難所でテンポがかなり落ちる、ちょっと苦しそう・・・ 終結部もかなりテンポを落とす。 エチュードOp.25-4:軽快で適度なテンポルバートも取り入れた音楽的に良い演奏。ミスタッチは多いですが・・・ ノクターンOp.62-2:遅めのテンポで1つ1つの音を丁寧に扱い、思い入れたっぷりに歌い込んだ演奏。 スケルツォOp.20:音の粒はよく揃っている。歯切れも良い。迫力は今一つ。 全体として良い演奏。 エチュード2曲の失点がどの程度か、気になります。 この辺りはかなりシビアに評価されるでしょうから、通過は厳しいでしょうか。
A~B 13. Ji Hyun-gyu(韓国) ノクターンOp.55-2:伸びのある音色、アーティキュレーションは細部まで練られていて上質なノクターン。 この曲のスタンダートを踏まえながら細部の表現に踏み込んでいて丁寧で美しい仕上がり。 エチュードOp.10-12:ダイナミックで情熱的な「革命のエチュード」。 エチュードOp.25-5:安定した良い演奏ですが、主部の中ほどで比較的大きなミスの連鎖・・・ 中間部の歌い方は丁寧。 スケルツォOp.31:ダイナミックで情熱的でロマンティック。 ミスもそれなりにありますし、雑な部分もありますが、なかなかスケールの大きい立派な演奏でした。 この人の演奏も素晴らしいですね。 こういう演奏を聴くと、先程弾いた日本人4人の女性の演奏がいかにこぢんまりとした演奏であったかが よく分かって、悲しくなります。ピアノは男の楽器であることがよく分かる現象です。
A 14. Jin Zihan(中国) エチュードOp.25-10:主部はダイナミックで純度の高い音色。中間部はオクターブの下の音を強調するなど 工夫もあり、ニュアンスも豊かで上質で「聴かせる」素晴らしい演奏。 エチュードOp.25-11:ダイナミックで迫力のある「木枯らし」、明らかなミスタッチなし。これはすごい・・・ エチュード2曲から入った理由がこれでよく分かりました。 マズルカOp.33-4:マズルカ拍子の2拍子的要素を少し強調した弾き方。響きやニュアンスも芸が細かい。 良い演奏だと思いました。 ノクターンOp.62-1:伸びのあるつややかな音色・・・細部に細かいニュアンスを付けて この恍惚とした旋律をたゆたうように歌わせる・・・エチュードで見せた超絶技巧とは別の一面、魅力も見せる(聴かせる)。 スケルツォOp.54:軽快で速いパッセージも軽妙で音の粒も揃っている。テンポの軸もぶれない、和音もバランスの良い響き。ミスタッチも少ない。今回の予備予選でこの曲を選んだ出場者の中で上位一握りには確実に入る 圧巻の名演奏。 ここまで聴いてきて、最後の韓国人男性、中国人男性の演奏は、 音色の艶や伸びが全く違うだけでなく、 強靭なテクニックと豊かな音量で、その前に弾いた4人の日本人女性の演奏が完全にかすんでしまった印象です。 言ってみれば、この最後の中国人男性1人に、日本人女性4人が「一網打尽」にされてしまった感じがして 悲しくなります。信じたくないことですが、これが現実です。繰り返しますが、ピアノはスポーツ競技同様、 女性に圧倒的に不利です。日本人優勝者を出すためには、この現実を冷静に振り返って、男性ピアニストを 育成する環境を作り上げていかなければならないと思います。 それは長い年月がかかると思いますし、僕が生きている間には実現できないでしょうが、 遠い将来を見据えて、真剣に取り組んでいかなければならない課題だと思います。
2025年ショパン国際ピアノコンクール・予備予選・総括 4月23日から5月4日の12日間に渡り、2025年第19回ショパン国際ピアノコンクールの予備予選が開催され、 全出場者の演奏が終了しました。 出場者のピアニストの皆様には、素晴らしい演奏を披露し、届けて下さったことへの感謝の言葉と、 この日の演奏のために日々たゆまぬ努力と練習を 積み重ねて来られたことと、極度の緊張の中、30分間という決して短くない時間、 全身全霊を捧げて素晴らしい演奏を披露して下さったことへの最大限の敬意と労いの言葉を送りたいと思います。 本当にありがとうございました、そしてお疲れ様でした。 そして審査員の先生方にとっても、12日間、連日、長い時間、コンテスタントの演奏に真剣に聴き入り、採点するという スケジュールは過酷なものであったと思います。私の声は届かないかもしれませんが、 最大限の労いの意を表したいと思います。 そしてコアなショパン音楽好きの方々も、連日、眠い目をこすりながら、リアルタイムで演奏に聴き入っていた方も いたのではないかと思います。YouTubeの動画のリアルタイム視聴者数を見ると、 平均で5000人~6000人程度と、思いのほか少なく、この中に日本人は何人いるのだろうと考えると、 少し寂しいような気もしましたが、日本全国探せば、同じようにリアルタイムで視聴していた方も 数百人程度はいるものと推測しています。 今回、予備予選レビューは仕事との兼ね合いで難しい面もあり、全出場者の演奏を聴いてもれなくコメントする という途方もない企画は、実際に実現しようというやる気はあっても、実を言うと自信は全くありませんでした。 「今回は全員の演奏を聴いてコメントします」 などと大風呂敷を広げてしまうと、それが実現できなかった時に「約束破り」となってしまうため、 密かに「不言実行」にしようと思ったわけです。 仕事の都合で演奏を全く聴けない日もあり、キャッチアップもなかなか難しかったのですが、 幸いなことに予備予選開催期間中、我が国はゴールデンウィークで休日が比較的多かったことと、 2度の週末を迎えたことで、キャッチアップする時間的余裕が生まれました。 その間、僕は他のことをほぼすべて犠牲にして、出場者演奏のアーカイブをひたすら聴き続けて、 コメントを書くという作業に徹していました。その甲斐あって、5月5日中に全ての演奏の視聴を終えて、 コメントも一応、一通り書き終わりました。 周囲やネット上に、今回の予備予選の演奏内容について語り合える仲間もなく、 またネット上にそのような情報発信をしている人などの声が全く聞こえてこない状況で、 自分の耳だけを信じて、各出場者の演奏を自分の好みに応じてランク付けする作業は、 僕にとってそれが楽しい作業であるからこそ最後まで続けられたのだと思います。 このような経緯から、今回のレビューも100%僕自身の独断と偏見で書いたものですので、 皆さんの感じ方、考え方と異なる部分もあると思いますし、多かれ少なかれ異論もあろうかと思います。 そのようなものも含めて、「こういう聴き方をしている人もいるんだ」程度に捉えていただければと思います。 今回のショパンコンクールの予備予選出場者全員の演奏を聴き終えて、感じたことは、 異常なレベルの高さでした。特に中国勢の台頭が際立っており、それは中国出身の出場者数の異常な多さが 物語っていますが、単に「数」だけでなく、中国人出場者1人1人の演奏レベルが極めて高いことも 驚嘆すべきことでした。 また中国勢だけでなく韓国人出場者のレベルも極めて高いと感じました。 欧米諸国出身の出場者は年々少なくなっているだけでなく、そのような出場者のルーツも アジア系であることが多く、非アジア人出場者の占める割合もさらに減少傾向と思われます。 ただ単に「数」が減っただけでなく、演奏の質においても、アジア系出場者が技術的に高度で 非常に傷の少ない演奏をするのに比べるまでもなく、欧米系の出場者の演奏は技術的な粗が多い傾向で、 ショパン国際ピアノコンクールは、中国勢に乗っ取られてしまうのではないか、 という危惧さえ抱かざるを得ない状況です。 そのような中、アジア系の我が国も、この流れに乗って、ショパンコンクールで躍進してほしいと 願っているのですが、我が国の場合は、この勢いに全く乗れていないように感じました。 ところどころで再三言っているように、 日本人の場合、男性出場者の割合が少ないことが、勢いに乗り切れない最大の要因だと感じています。 これについては、また項目を改めて詳しく書きたいと思います。 今回、各ピアニストの各曲の演奏に対して抱いた感想を簡単に記し、A~Eでランク付け しましたが、これは自分の好みに合うかどうかの尺度であり、必ずしも演奏の優劣とは限らないことを 改めて申し添えておきます。 ランクはCが中心ですが、実際はそれより甘くしてあります。特に素晴らしいと感じた演奏にはランクAを つけていますが、今回ランクAを付けた出場者は計14人でした。 僕の好みが優劣の尺度となるようであれば、ランクA、A~B、Bまでが通過レベル、B~C以下は 通過は厳しいということになるのでしょうが、実際どのようになるのか、注目したいと思います。 今回のショパンコンクール予備予選出場者の中で、僕自身がランクAを付けたピアニストは以下の通りとなります。 異論はあろうかと思いますし、この出場者が良い成績を収めそうだなどということは現段階では言えませんが、 実際、かなり注目すべきと思われる突出したピアニストもいましたので、参考にしていただければと思います。
4/23 ★印を付けたピアニストは今回の出場者の中で特に突出していると思われたピアニストです。 音の輝き、並外れた技巧、特にエチュードOp.10-1とスケルツォ1番が超絶的な名演奏で、 素晴らしさのあまり、聴きながら冷静さを欠いたコメントをしてしまいました。 僕の感覚が正しければ、今回のショパンコンクールの優勝候補の筆頭は彼ではないかと 思っています。 このような超名演奏に出会った時の感動を、誰とも共有できないもどかしさを感じながらも、 これを読んで下さっている方々に、この人の演奏の素晴らしさと僕の感動が少しでも伝われば、と思いながら、 これを書いています。 その他、Aランクを付けたピアニストはそれぞれ素晴らしいものを持っていると思いますし、 それぞれの演奏の特徴と先の見通しについても改めて整理し直したいと思います。 そのことについて改めて記したいと思いますので、日をおいて当ページをチェックしていただければと思います。 予備予選通過者はポーランドで5月6日午前(日本時間で夕方)に発表される予定とのことです。 結果が気になりますね。 発表結果はここにも掲載したいと思います。 2025/5/6 予備予選・結果 ポーランド時間:5月6日午前10時30分(日本時間5月6日午後5時30分)に以下で発表されます。
出場者一覧です。出場者名の前に僕が付けたお気に入りランクを記し、通過者に〇を付けました。
この結果、僕にとってはあまりにも意外過ぎて、納得できないことが多すぎたのですが、皆さんはどうだったでしょうか。 ここで僕がランクAを付けた14人のうち、通過者は9人。5人が落ちました。 確かにその場の勢いで、Aを付けてしまった出場者もいましたし、Aを付けるのはもっと慎重にするべきだったか、 と後になった思うことはありますが、その場合は次点のA~Bを付けることになりますし、 いずれにしても高評価であることには変わらず、落ちることは到底予想できないということになります。 その一方で、ランクC、C~Dを付けた出場者が、少ないながら通過していたりします。 ランクC以下の人は技術的に粗が多い演奏をした人(緊張で普段の実力を発揮できなかった人も含まれる)です。 ピアノ演奏において技術というのは重要かつ分かりやすい指標でもあり、重視されるかと思ったのですが、 確かに技術に難がある演奏をした出場者やミスタッチが多い出場者の多くは通過していない印象ですが、 例外も結構あり、その辺りの判断基準が不可解だったりします。 この辺りは審査員の好みもあるでしょうし、会場で実際に聴こえる音と、マイク、スピーカーを通して 間接的にこちらに届く音とのギャップもかなり大きいと思われますし、そのような理由も大きいと思われます。 しかしそのような要素を勘案したとしても、僕の中でランクAとランクCには歴然とした差があることは 紛れもない事実で、どう転んでもランクAの人にランクC、ランクCの人にランクAを付けることは 100%あり得ないことです。 今回の予備予選に限ったことではないですが、審査結果には何かしら大人の事情が絡んでいるのかもしれませんし、深入りしない方が賢明とは思います。 いずれにしても、こうして通過者が選ばれました。 今回、予備予選通過者は66人、予備予選免除者は19人、計85人が10月から行われる本番(1次予選)に 出場することが決定しました。 その一覧が発表されていますので、リンクを掲載します。 1次予選出場者(予備予選通過者+予備予選免除者)一覧 https://chopincompetition.pl/en/competitors?id_subgroup=4&view=grid
1. Piotr Alexewicz 1次予選出場者を見て、僕が一番驚いたことは、エリック・ルー(Eric Lu)の名前があることでした。 10年前、2015年第17回ショパンコンクールで第4位入賞を果たしている彼が、再挑戦するというのは、 多くのファンを驚かせたのではないかと思います。 かつてショパンコンクールの歴史上、入賞を果たした人が再挑戦するというケースは過去にあったでしょうか。 あったのかもしれませんが、いずれにしてもかなりのレアケースであることは間違いないです。 10年前、ここでのリアルタイムレビューをしながら、彼の演奏を初めて聴いた時に感動し、 彼の優勝を願ったあの時のことを昨日のことのように思い出します。 最終的に4位入賞というのは僕にとって残念な結果でした。 それはきっと彼にとっても同じであった、いや僕以上に残念で不本意であったはずです。 その彼が今回のショパンコンクールに出場する以上、狙うのは優勝ただ1つと思われます。 10月からの本番が待ち遠しくなってきますね。
2025/05/07 予備予選の結果の理不尽さと不条理さを嘆く 予備予選終了から約2週間が経過しましたが、予備予選の審査結果に対する自分なりの感想・意見について、まだ色々書きたいことが盛りだくさんのまま、何から書けばよいか整理がつかず、そのまま時間だけが空しく過ぎていくという状況でした。 今回、僕が評価AまたはA~Bを付けたにもかかわらず通過しなかった出場者が大勢いる一方、評価C以下を付けたにもかかわらず通過した出場者もまた大勢いるという話をしました。 これは本当に納得のできない現象でしたので、事後検証を兼ねて、前者と後者の演奏を中心に再度、聴いて検証を行いました。 しかしやはりと言うべきか、各演奏に対する感想と評価点は全く変わりませんでした。 評価C以下の出場者は技術的に弾けていない箇所が多く、その未熟な技術ゆえに安定したテンポが保てず演奏が不自然になってしまうようなコンテスタントです。この人たちを通過させるためには、それを補って余りあるよほどの音楽的魅力が必要になるはずですが、そもそもそのような音楽的魅力を表現するのに必要な技術が不足しているわけですから、僕の耳で聞くと、やはり低評価であることに変わりはありません。 一方で評価AまたはA~Bを付けたにもかかわらず通過しなかった出場者の演奏も聴きました。2度目に聴くと、「この人はエチュードやスケルツォはよくてもノクターンとマズルカの表現に魅力が乏しいかな」、とか「強靭なメカニックを持っているけれども、それに頼りすぎるところがあって、ショパン向きではないかな」、とか「技術的には素晴らしいけれども、最後の方はばててしまったのか、少しミスが目立つようになってきたかな」といったように、それぞれの演奏も手放しで絶賛できるものではなかったことは確かです。 しかしこの人たちが通過しなかった理由が、全演奏の中のこうした至らない部分にあるとしたら、僕が評価C以下を付けたにもかかわらず通過したコンテスタントの演奏の至らない部分の数と程度は、その比ではありません。 このようなコンテスタントの演奏を繰り返し聴いてみると、予備予選の結果に納得できるどころか、ますます不審と不満が募っていくことになってしまいました。 皆さんはこの結果に納得できているでしょうか。技術的にレベルに未達のコンテスタントが多く通過した一方で、素晴らしい演奏を披露したコンテスタントが不当に評価されて落ちてしまったことは、毎回のことながら、僕にとって本当に悲しいことでした。落とされてしまった当の出場者にとっては、その悲しみは僕の比ではないはずです。あまりにも理不尽です。 予備予選免除組の出場者 今回、予備予選出場者160人余りのうち、通過したのは66人で、競争率は2.5倍に達する狭き門でした。予備予選出場者からの通過者をここまで絞ったのは、予備予選免除者を増やしたためのようです。今回、予備予選免除者は19人に増えて、その中には日本人の有望なピアニストも複数いるので、その意味では歓迎すべきことではあるのでしょうが、その多くはポーランドの国内のレベルの低いコンクールの入賞者であったりします。 前回の第18回ショパン国際ピアノコンクールでは、予備予選免除組のポーランド人は押し並べてレベルが低く、レベルの高い中国人勢とのレベルの違いが際立っていました。前回も今回も、ピアノの演奏レベルだけを基準に審査してしまうと、中国人が圧倒的多数を占めて、ショパン国際ピアノコンクールが中国人勢に乗っ取られてしまう勢いでしたので、今回、予備予選免除組の人数を増やしたのは、それを阻止するための苦肉の策と考えられなくもなさそうです。そのためにコンクールのレベルが下がってしまうのは致し方ない、ということでしょうか。出場者の演奏のレベルや質だけで評価するのが本来の民主的な審査方法であり、コンクールの在り方であることを考えると、このような恣意的なやり方を好まないという人も出て来そうです。 皆さんはどのように考えますか? 優勝の行方を予想する ずばり、今回、2025年第19回ショパン国際ピアノコンクールの優勝は最終的に誰の手に渡るのか? 今回、中国人勢の勢いは前回にもまして凄まじいものですが、コンクール運営側が、ポーランド国内コンクールの入賞者を予備予選免除に組み込んで中国人の勢いを少しでも抑えようと意図しているように見えることからは、中国人の優勝を阻もうという意図が読み取れます。 中国人以外で、今回僕が評価Aを付けて通過した出場者となると、かなり限られてきます。実際、以下の3人しかいません。
Khrikuli David(ジョージア) Khrikuli Davidは品が良くセンスの良い演奏をする正統派ですが、最後のスケルツォ4番は疲れのためか、ややミスが目立ったのが惜しまれました。評価Aは付けましたが、この人がどこまで勝ち進めるかは、僕の耳と感覚では今の段階では何とも言えません。 Zhang Jacky Xiaoyu(イギリス)は最初のノクターンOp.62-1から惹き込まれましたし、エチュードOp.10-1とスケルツォ1番は、いずれもこの作品を演奏した今回の全出場者の中で最優秀演奏であることは間違いないです。やはりこの人が予備予選全出場者のトップではないかと思います。 Strata Gabriele(イタリア)は、全体的にやや遅めのテンポで各フレーズに細かいニュアンスを付けながら全体として完成度の高い演奏をしていました。独特の感覚を持ったピアニストですね。
中国人に絞るとその中での序列はどうなりそうでしょうか。
Li Zhexiang(中国) コンクール側が「中国枠」として通過者を制限してくるのなら、ここから本選まで勝ち上がれるのは1人ないし2人といったところではないかと思います。 前回のショパンコンクールでは、あれだけ中国勢の勢いがすさまじかったにもかかわらず、最終的に本選まで駒を進めることができたのは、Hao Raoさんただ1人だったことを考えると、この予想は妥当なものではないかという気もします。 それでは、今回もHao Raoさんがこの中では最も有望なのでしょうか。個人的にはこの人の演奏は正直、あまり好きではないので、他の人に進んでほしいというのが本音です。この6人の演奏はもう一度この順で続けて聴いて自分の中で序列と仮説を作っておきたいと思います。 予備予選免除者の注目すべきピアニスト~Eric Luさんを中心に 予備予選免除者にも目を向けてみると、この19人の中に優勝候補となり得る出場者がいるかどうかも大いに注目されます。 予備予選免除者はポーランド人が多く、再挑戦者が多いのは予備予選出場者同様です。 その中で僕が最も気になるのが、やはりEric Luさんです。10年前、2015年第17回ショパン国際ピアノコンクールでも 1次予選から、その筋の良いテクニックと比類ない音楽性で他を圧倒していたのは皆さんもご存知の通りで、 僕は彼の優勝を強く願っていたのですが、結果は4位という、僕の期待からすれば残念な結果でした。 「4位入賞なら十分立派ではないか」という意見もあろうかと思いますが、ピアニストとしての総合力はともかく、 「ショパン弾き」に特化した資質に関しては、1位のチョ・ソンジンを上回っていると僕は思っていましたし、 今でも思っています。彼は謙虚そうに見えますが、内心は4位入賞という結果に納得していなかったはずですし、 それが今回、再挑戦を決意した最大の理由ではないかと思います。 それにしてもショパンコンクールの歴史上、入賞者が再挑戦したケースはあるのでしょうか。 僕が知る限り、そのようなケースはないと思いますし、コンクールの規約で入賞者の再挑戦は 認められていないのではないかとも考えていたのですが、そのような規約が本当にあったのか、 あったのだとすれば、その規約がなくなったのかもしれません。 しかし規約がどうであれ、そもそも入賞者が再挑戦するというのは、ハイリスクローリターンのように 思われてならないです。入賞者の再挑戦が規約で認められていたとしても、 再挑戦しようという勇気と覚悟はなかなか持てるものではないと思います。 入賞の順位にもよりますが、4位入賞者の再挑戦の目的は 最低でもその成績を上回ること、つまり、最低でも3位入賞を果たすことです。 しかも本選まで勝ち進める保証はない上、仮に勝ち進めたとしても3位以内に入ることは、 いかにEric Luさんといえども至難の業です。 いえ、Eric Luさんが10年前と同様もしくはそれ以上の演奏ができて、その真価が正しく評価されれば、 3位以内の入賞は十分期待できるとは思いますが、ここには2つの問題があります。 1つは「10年前と同様もしくはそれ以上の演奏ができること」、もう1つは「その真価が正しく評価されること」です。 ピアニストも人間ですから、10年経てば演奏スタイルは程度の差はあれ、変化します。 それがはっきり「成長」、「成熟」と呼べる好ましい変化の場合もあれば、若々しく初々しい情緒が失われる、 パワーが付いただけで音色が汚くなってしまう、練習嫌いで技術が落ちる、 独特の信念に基づいた癖のある演奏に変わってしまう、などの明らかに「劣化」と 呼べるような好ましくない変化の場合もあります。特に究極の高いレベルを維持するのは、 並大抵のことではなく、Eric Luさんの演奏からご無沙汰している僕としては、 演奏スタイルが悪い方向に変化していないかどうかが心配です。 仮に演奏スタイルが10年前から現状維持、もしくは良い方向に変化していたとしても、 今度はその真価が正しく評価されなければ、期待する結果を残すことはできません。 ここが最大の懸念事項です。 今回の予備予選の審査結果を見ても、良い演奏をしても通過できなかった出場者が多い一方、 技術的にも音楽的にも不安定な演奏をしながら通過した出場者も多く、 審査結果を左右する要因が演奏の良し悪しだけではないことが、強く示唆される結果でした。 ですから、どんなに良い演奏、自分の納得できる演奏ができたとしても、審査結果がそれに伴わない ということは十分起こり得ると思いますし、僕はそこを一番心配しています。 そもそも4位入賞者が再挑戦する場合、そのリスクの大きさを考えると、今回3位入賞でも物足りないはずです。 それでは2位ならどうか?これも微妙だと思います。 そうすると、狙うのは優勝ただ1つ、ということになりそうです。 かつてオリンピック(2000年シドニー五輪)でその目標を「最低でも金、最高でも金」と語った柔道の谷亮子選手を 引き合いに出すまでもなく、Eric Luさんが今回のショパンコンクールにかける意気込み、目標はまさしく 「最低でも1位、最高でも1位」ではないかと思えてきます。 しかし、優勝するためには、予備予選で見つけたZhang Jacky Xiaoyuというずば抜けた天才を下さなければならず、 また彼ほどではないにしても上位にはかなりの実力者がひしめいています。 また予備予選免除者の中に意外な天才が潜んでいる可能性もあり、 一筋縄ではいかなさそうです。 何をどう言っても僕には何もできないですので、成り行きを静かに見守りたいと思います。 現在のEric Luさんの演奏が、10年前の彼の演奏の延長線上にいる、つまり好ましい変化を遂げているのだとすれば、 僕は迷うことなく彼の優勝を強く願います。 10月に行われる本大会に際して 今回の予備予選の審査結果は、僕にとってはどうしても不可解な部分があまりにも多く、理不尽、不条理と感じていることは前述した通りです。 このようなことは、10月からの1次予選以降も同様に起こることが予想されます。何回かコンクールの演奏を実際に聴いて、審査結果と自分でつけた評価を照らし合わせると、コンクールの各ステージ毎の審査結果は、演奏の良し悪し以外の僕たち部外者が知ることのできない要因(例えば誰に師事しているか、その先生は審査員の誰と仲が良いか、または仲が悪いか、ショパンコンクールへの影響力・政治力は大きいか、小さいか、など)によっても大きく左右されていそうだという確信に近いものが芽生えてきてしまいました。 そのような状況の中で、ただ出場者の演奏だけを聴いて、「この人が有望だ」、「この人が優勝候補の筆頭だ」などとテンションが上がる自分に、言いようのない空しさと悲しさがこみあげてきます。 色々考えた上での苦渋の決断ではありますが、そのようなわけで、今回10月以降の本大会(1次予選以降)は、このようなレビュー、コメントを発信せず、静かにひたすら受け身で聴く側に回りたいと思います。 もちろん、僕自身は各出場者の演奏は一音も漏らさないくらいに真剣に聴き入りたいと思いますし、自分なりのメモを取りながら聞く予定ではあります。ただそれを発信しないというだけです。 もちろん公には発信しないというだけで、個別にメールを送って下されば、僕自身の聴き方、感想などをお話しすることはできますし、むしろそのような交流を楽しみにしたいと思います。 各出場者へのコメントや評価点はつけなくても、皆さんがショパンコンクールを快適に視聴できるように、演奏者の名前と演奏順、日程、動画埋め込み、動画リンクなどは作成してお待ちしたいと思います。
またその時期になりましたら、是非よろしくお願い致します。 2025年5月21日
予備予選日本人出場者一覧と主なコンクール歴
4/23(水)
4/24(木)
4/25(金)
4/26(土)
4/27(日)
4/29(火)
4/30(水)
5/2(金)
5/4(日)
予備予選(2025年4月23日~5月4日)
以下のa), b)からそれぞれ1曲ずつ
b)
※a), b)ともに難易度の幅が比較的広いですね。
以下の作品から1曲
※本格的なノクターンで歌心をみる目的。
以下の作品から1曲
以下のマズルカから1曲 ※エチュードa), b)は続けて演奏。それ以外の曲順は任意。
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