音楽性に結び付いた使えるピアノのテクニックの習得法
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〜音楽性に結び付いた使えるピアノのテクニックの習得法〜

ピアノのテクニックを上達させたい

ピアノのテクニックを向上させたい・・・これはピアノを弾く皆さん全てが抱く願いではないかと思います。 ピアノを弾く以上、テクニックを身に付けなければ、何の表現もできないばかりか、弾きたい曲すらまともに弾けない、 あるいは弾きたい曲に手も足も出ない、そんな状況に置かれてしまうわけです。

しかも、ピアノのテクニックというのは一朝一夕に身に付くものではなく、日々のたゆまぬ努力が必要になります。 何とも過酷で非情な世界ですが、それでもなお、これだけ多くの方々が日夜、ピアノの練習に励んでいるのは、 それだけ皆さんがピアノの世界に魅せられているからではないでしょうか?

中には半強制的に、あるいは漫然とピアノに向かっている方もいるかもしれませんが、 ピアノに向かって練習している以上、やはりテクニックを上達させたいという思いを抱かない人はいないと思います。

それでは一体、どのような練習をすればピアノのテクニックは上達するのでしょうか?

その際、必要になる心構えとはどのようなものでしょうか?

それがここでのテーマです。 これを意識するのとしないのとでは、数年後、テクニック的な実力に大きな開きが生じると思います。

ピアノのテクニックとメカニックの違い

皆さんは既にご存知かもしれませんが、ピアノ演奏において「テクニック」という言葉を使う場合、それは音楽性を含んだ概念です。 純粋に機械的な指の運動能力を言う場合、ピアノにおいても「メカニック」という言葉が用いられ、 厳密には「テクニック」とは区別されます。

「メカニック」はもちろん必要で、プロのピアニストの場合、毎日練習の前に2〜3時間は、 スケール、アルペジオ、オクターブ、三度、六度、連打などの基礎的な練習を日課にしている人もいますが、 練習時間のあまり確保できない私たちのようなピアノ弾きの場合、時間的効率から考えても、 楽曲を弾くための「テクニック」を身に付ける過程で自然に身に付けるべきものと考えています。

それでは、「テクニックのレベルが高い」というのは、指が強く速く動かすことができることでしょうか? もちろんそれは重要なことですが、それだけでは十分とは言えません。

ツェルニーなどのいわゆる練習のための練習曲ならともかく、名作曲家の芸術作品は様々な種類のテクニックが要求されます。 例えば、音階(スケール)、アルペジオ(分散和音)、アルベルティ・バス、オクターブ、連打、トリル、トレモロ、 三度、六度、跳躍など思いつくものを挙げていくだけでもかなりの種類になります。

ピアノを弾く上で、これらのうちどれが欠けても、それを必要とする作品を完璧に弾き通すことは不可能となります。 あるいはショパンのような複雑な書法を持つ作曲家の作品の場合、上記の分類のどれにも当てはまらない、 極めて特殊なテクニックが随所に用いられており、その作品の中でしか学べない特殊テクニックも数多くあります。 しかも、それぞれのテクニックの種類において、必要な強さ、速さを身に付ける必要があるため、 日々の意識的な訓練が必要になります。

ところで、これらのピアノのテクニックは本来それ自体は目的ではなく、 あくまで自分の理想の音楽を表現するための「手段」です。

ピアノをスポーツに例えて言うならば、ピアノのテクニックはいわば「基礎体力」です。 これがなければ試合に勝つことができないですし、他の能力が相手より優れていても、 基礎体力がないばかりに惨敗を喫してしまうことにもなります。 しかし、基礎体力があればそれで十分というわけではなく、あくまで必要条件でしかないところにピアノの難しさがあります。

但し、皆さんはそこまで難しく考える必要はないと思います。 「難しい曲を華麗に弾きたい」、「超難曲を皆の目の前で弾いてあっと驚かせたい」、それでいいと思います。 ピアノのテクニックそれ自体を目標にしても、十分楽しくピアノを続けることができるからです。

ハノンやツェルニーを練習するだけでは不十分

それでは、その肝心のピアノのテクニックは何をどのように練習すれば上達するのでしょうか?

「ツェルニーやハノンをやっていれば嫌でも上達するでしょう?」と考える方もいるかもしれませんが、 実はそうではないんです。それでは、ショパンやドビュッシー、ラフマニノフなどは弾けるようにはならないです。

ハノンはそれ自体、音楽ではなく音の羅列に過ぎないため、演奏に必要な音の出し方、音色の作り方については 何も学ぶことはできませんし、残念ながら、ツェルニーは音階やアルペジオにウエイトが置かれすぎていて、 それ以外のテクニック、あるいは手首や肘、肩の使い方、ひいては全身を使うピアノ奏法を身に付けるには、 あまりにも不十分です。音楽性も育ちませんし、音楽の中でそのテクニックの奏法を、 どのように生かせば音楽として生きてくるかを身体で覚えることもできないわけです。

ハノン、ツェルニーをいくら頑張って練習したからと言って、 ロマン派の華麗なピアノ曲を音楽性豊かに華麗に弾きこなすことは、残念ながらできないのです。 それにハノンやツェルニーは弾いていて面白くないという致命的な欠陥があります。

おそらく、これをお読みの皆さんも、ハノンやツェルニーが弾きたくてピアノを弾いているわけではないと思います。 このサイトに来られるくらいですから、きっとショパンを弾きたいと思っていらっしゃるのではないでしょうか? ショパンを上手に弾く方法については、このサイトでも追い追い、詳しく解説していきたいと思うので、 ここでは一般論を説明したいと思います。

今弾いている曲はピアノテクニック上達の格好の素材になる

それでは音楽性と融合した「使えるテクニック」を身に付けるには一体どうすればよいでしょうか?

それはずばり、音楽的に優れた作品を弾く中でそこに使われているテクニックを1つずつ消化していく、これに尽きます。 もちろん数をこなせば複雑なパターンの様々なテクニックが身に付きますが、まずは量より質と考えるべきです。

今、自分が課題として弾いている曲を、皆さんは技術的に問題なく弾けていますか? ここがどうしてもうまく弾けない、ここが苦手だ、という部分があるのではないでしょうか? その部分、皆さんはどうしていますか?ミスしてももつれても、あるいは毎回ごまかしながら何となく弾いていたりしませんか?

もしそうだとしたら、それが皆さんのテクニック上達を阻んでいる最大要因と言ってもいいくらいです。 非常にもったいないことをしています。

20世紀の大ピアニストのアルトゥール・ルービンシュタインは過去の自分を振り返って、 「あの時、私は音符の80%をミスタッチしただろう」と言っていますが、これはもちろん彼一流の冗談で、 ピアノ演奏は全ての音符の少なくとも95%は正しく弾かなければ音楽として成り立たないという厳しさがあります。 90点の演奏は不合格で、これを95点以上に底上げしなければならないわけです。

学校の勉強を例に取れば分かると思いますが、90点を95点に引き上げるのは、簡単のようで意外に難しいと思います。 100点からの引き算で考えると分かりますが、できない問題、間違える問題を10点から5点へと半分に減らすことを考えると、 その難しさが分かると思います。できる問題ばかり繰り返しやるのは、多くの場合、単なる自己満足にしかならず、 実力アップはそこで止まり、頭打ちになってしまいます。

ピアノもこれと同じで、弾ける部分を繰り返し弾くことで定着していくという効果はありますが、 弾けない部分を克服することの方がはるかに重要で、かつ難しいことです。 この課題を1つずつクリアしていくことで、今の自分を乗り越えることができます。

より端的に言えば、今弾いている曲の中で苦手な部分、上手く弾けない部分にこそ、 今現在の自分にとって成長に必要な素材が眠っているという考え方を僕はします。 そうやって、今の自分を乗り越えることで自分の現在のテクニックをさらに高めていくわけです。 その際に気を付けるべきことを以下に述べたいと思います。

自分の演奏を注意深く聴き、可能な限り妥協しないこと

「上手く弾けない部分」、「苦手な部分」を克服し、弾けるようにすることが、テクニック上達において最も重要と述べましたが、 その際、心掛けるべきことは、自分の弾く音を注意深く批判的に聴くことです。 そして、少しでも納得できない部分があったら、そのままその部分を漫然と弾き流すのではなく、 自分で演奏を止めてその部分を集中的にさらう(練習する)ことをお奨めします。

リズムがおかしい、和音のバランスがおかしいと思ったら、そのままにせず、 おかしいと感じる原因を追求して、絶え間なく修正作業を加えていくことが大切です。 そして、どの部分をとっても、「95点」を超える演奏ができるように、苦手箇所をなくして、 1曲を通しての各箇所の平均点を底上げするようにします。

こうして、まんべんなく弾けるようになって初めてその曲を「弾けた」と言うようにして下さい。 そのような姿勢で1曲1曲を丁寧に仕上げていく、ということを積み重ねていけば、 ただ何となく弾いただけで弾けたと思い込んでいる人とは、数年後には大きな差がつくことになります。

但しどんなに頑張っても弾けるようにならない部分がある場合、それが弾けるようになるまで、 その部分に固執するのは大幅な時間のロスになることもあるので、あくまで程度問題です。 そのような部分は恐らく皆さんの技術的レベルを大きく超えていると思われるため、一度、その部分から離れることも必要です。 そうして他の曲を何十曲も弾いてきて、技術レベルが上がった後で、再度取り掛かってみると、 その時の苦労が嘘のように楽に弾けるようになっていた、という現象も実際にありますし僕にも経験があります。

程度問題ではありますが、自分で上手く弾けない分があったら、その都度、その部分を取り出して、 集中的に部分練習して曲全体の演奏レベルの底上げを図る、という姿勢で取り組んでみて下さい。 それがピアノのテクニックの上達に必要な心構えです。

次の項では、1曲を仕上げていく過程について説明します。

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