ショパン演奏
〜ショパン・エチュード〜
エチュード第3番ホ長調Op.10-3「別れの曲」:演奏時間 3' 52''

遅くなりましたが、ショパンの超名曲「別れの曲」です。この曲がエチュード(練習曲)だという事実を 知らない人も多いと思いますが、れっきとした練習曲です。この曲は、主部(前後の部分)ではメロディーラインと他の声部を きれいに弾き分けて歌うことが課題ですが、何と言っても課題は中間部に集中しています。 中間部最初の6度の連続からしてクセモノですが、左右ともに4度の連続で乖離進行したり、クライマックスには10度を つかめる手の大きさがないとかなり苦戦する6度の連続部があって、かなり難易度の高い曲です。 中間部をものにするには相当の技術が必要になりますが、そこは無理でも、 前後のホ長調の美しい旋律を弾いて陶酔するのも、この曲の楽しみ方だと思います。

エチュード第5番変ト長調Op.10-5「黒鍵」:演奏時間 1' 43''

「黒鍵のエチュード」として知られる有名曲です。右手は1つの音を除き、後は最初から最後まで黒鍵だけを弾き続けます。 ショパンはこの曲について、「右手が黒鍵ばかりを弾き続ける曲だということを知らないと、何の面白みもない曲」と 言っていたそうですが、確かにエチュードの他の曲に比べると、音楽的にやや物足りないものがあるかもしれない、 とも感じます。なお、この曲はエチュードとしては難しい部類には入らないものの、 ごまかしなくきちんと弾こうとするとかなりの難易度になると思います。 もっと軽いアクションのピアノだったら、もう少しマシな演奏ができるのに…というのは独り言です(笑)

エチュード第6番変ホ短調Op.10-6:演奏時間 3' 04''

ショパンの作品10,25のエチュード全24曲の中で、技術的に最も易しい(と思う)曲です。 しかし曲を聴けば分かると思いますが、音楽的には決して易しくない曲で、ただ単に暗いというだけでなく 独特の和声と雰囲気を持ち、不安定で曖昧な調性の間をゆらゆらとさまようところなど、聴く人に奇異な印象を与える曲です。 構成は分かりやすい3部形式で、主部は右手の旋律vs左手の伴奏という明快な構造でありながら、 旋律がほぼ小節ごとに保持され、各小節の終わりのみに動きを持つ というパターンで、小節の終わりに動く部分でややテンポを落として「ため」を作ることが、 単調な流れになるのを避けるうえで重要なポイントとなります。但しこれをあまり意識してやりすぎると「嫌味」になります。 中間部ではゆっくりした16分音符を刻む役目が右手に移り、右手は5指で旋律を、それ以外の指で内声の16分音符を刻み、 左手はバスを支えるというパターンになります。右手の5指の旋律が他の音に埋もれてしまわないように浮き立たせながら、 不安定な調性の間をさまよう、曖昧で不思議な雰囲気を醸し出すのが課題になります。 主部が再現された後は、そのまま変ホ短調で静かに締めくくられそうな流れで消え入りますが、 最後の音は、当然G♭だろうとの予想を覆し、ナチュラルを付けて半音あげることにより、この一音のみの影響によって この曲は変ホ長調での終結となります(このようなところはノクターン9番の終わり方と相通じるものがありますね)。

エチュード第9番ヘ短調Op.10-9:演奏時間 2' 18''

左手の指を広げることと右手の表現力を目的とした練習曲で、ショパンのエチュードの中では特に易しい部類に入ります。 左手は同じような音型を繰り返しますが、カバーする音の範囲が広いため、指が短いと厄介な曲ではないかと思います。 (当然のことながら、手が小さいのと指が短いのは別の問題で、この曲の場合は特に指の長さが問題となります。) 左手の伴奏部の運指は531313を基本としますが、ここでの'1313'に当たる部分が9度の広がりを持つ箇所では、 13指で9度が届かない場合には'1414'に変更し、また'53'に相当する部分が6度の広がりを持つ箇所では'52'に変更するなど、 軸となる3指を2指や4指に素早く交代する技術が必要になります。指が短い人ほどこのようなことに気を使う必要がありますが、 いずれにしても手の柔軟性が十分にあればあまり難しくない曲です。右手は旋律を受け持ちますが、左手の伴奏の推進力によって 自然に導かれるようなイメージで右手の旋律を歌えばよい演奏になると思います。右手の5連符のオクターブの強音と 単音の弱音のコントラストもユニークですが、これも楽譜の指示を忠実に守り、そこにテンポの「ため」を入れると良い演奏になります。

エチュード第11番変ホ長調Op.10-11:演奏時間 2' 35''

初めから終わりまで左右両手のアルペジオが延々と続くユニークな練習曲です。 パラン、パランというアルペジオは、あたかもハープを連想させるものがあり、 エオリアンハープというサブタイトルは、エチュードOp.25-1よりも、むしろこの曲の方にこそふさわしいとすら思えるほどです。 このアルペジオの多くは1オクターブ以上、場合によっては13度の広がりを持つ幅の広い分散和音で、 普通の手の大きさの人にとって、その多くは一度に抑えることのできない広がりを持ちます。 つまり、手を柔軟に保った上で手首の柔軟な回転を利用して指の広がりを調節しながら 下から上へと順番に的確に打鍵していくことになりますが、このような理由から、 奏法上最もミスタッチをしやすい音はやはり最上音です。ところが多くの場合、その最上音が旋律を受け持つ 最も重要な音となる点がこの曲の厄介なところで、美しい旋律が、外しやすい音の連続によって成り立っているため、 綱渡り的な要素が多分にあります。 1つ1つの和音ごとにアルペジオの構成音が目まぐるしく変わるため、 その都度、指の広がりを調節して自分の覚えた位置感覚を頼りに的確に打鍵するのがこの曲の課題です。 しかし、一度、手になじんでしまえば案外楽に弾けてしまうことに加え、特別な指の運動神経を必要としない曲であるため、 ショパンのエチュードの中ではかなり易しい部類に入ります。 アルペジオが広い範囲にまたがるため、手の小さい人、指の短い人ほど難易度が高く感じる曲だと思います。

エチュード第12番ハ短調Op.10-12「革命」:演奏時間 2' 34''

「革命のエチュード」として知られる曲で、ショパンのエチュード(練習曲)の中では、「別れの曲」とともに、 最も有名な曲の1つです。速い左手の怒涛のアルペジオの上で、右手が怒りのオクターブを叩きつける曲で、 ショパンの曲としては、かなり激しい曲です。ショパンが祖国ポーランドを離れてパリへ向かう旅の途上で、 祖国ポーランドを支配するロシアへの反乱(革命)が失敗に終わり、再びロシアに制圧されたという知らせを聞き、 激しく激怒して、ピアノに向かって怒りを叩きつけるように弾いたのがこの曲の作曲の動機と言われています。 激しい曲調とは裏腹に、エチュードとしてはそれほど難しい部類には入らないのですが、 左手の速い動きをごまかしなく弾くのはかなり難しいと思います。

 

ショパン・エチュードOp.25

エチュード第13番変イ長調Op.25-1「エオリアンハープ」:演奏時間 2' 16''

ショパンのエチュードの中では人気の高い曲で、「エオリアンハープ」(「牧童」とも)というサブタイトルで 親しまれています。非常にユニークな曲で、1拍の中にある6連符のうち右手の拍の頭の音だけが旋律で、 残りの分散アルペジオは基本的には全てその旋律を支える伴奏としての役割に徹しています。練習曲としての課題もまさにそこにあり、 ハープで奏でられるような細かい伴奏は大きな1つの波として均質なタッチで滑らかに弾き、その上で旋律のみが その伴奏から美しく浮かび上がって聴こえてくるように弾くことが求められています。音型自体は終始一定していて 一種の常動曲とも言えますが、拍ごとに各指の位置関係や広がりが変化します。冒頭を弾いてみただけでは 「この調子で最後まで続くなら難しくない」と感じる人も多いと思いますが、途中に弾きにくい部分が出てくるので注意が必要です。 この曲は音楽的にも陰影、起伏に富んだ素晴らしい内容で、美しくロマンティックな旋律がわずかに憂いを帯びた 雄大なハーモニーに支えられて感動的に流れてきます。僕自身もこの曲は特にお気に入りのエチュードの1つです。

エチュード第14番ヘ短調Op.25-2:演奏時間 1' 43''

ショパンのエチュードとしては目立たず地味な存在ですが、味わい深い曲で指のための良い練習にもなる曲です。 右手が一瞬も途切れることなく3連符で終始狭い音域を駆け巡る曲ですが、そのパッセージのパーツは複雑で、 音階、トリルを含みながら、不規則な動きが多く現れます。これらを全てもつれずに弾き切るには 右手の各指に、完成された高度な独立性が求められ、上手く弾けない場合、運指の考察も必要になることも多いと思います。 このような理由で、易しそうに聴こえてもそれなりの難易度になりますが、やはりエチュードの中では易しい部類です。

エチュード第19番嬰ハ短調Op.25-7:演奏時間 4' 57''

この曲は「エチュード」の中の1曲ではありますが、速度表示は「レント」と非常にゆっくりしたテンポの情緒豊かな曲で、 ノクターンに分類した方がよいとさえ思える曲です。 この曲は右手、左手の音型や役割がやや特殊で、右手のゆっくりした連打の伴奏に伴って、 左手が主旋律を歌う形式で、雨音のする外を眺めながら、ため息混じりの男声の孤独なつぶやきを聴くかのようです。 このようなところは、プレリュード6番ロ短調を彷彿とさせます。 やや慣れない人は戸惑うことも多いのではないかと思いますが、技術的にはショパンのエチュードの中では特に易しい部類です。 途中、左手に速いパッセージが現れますが、一番速い部分はほとんど規則的なスケールなので難しくはないです。

エチュード第20番変ニ長調Op.25-8:演奏時間 1' 13''

ショパンのエチュードの中でも指折りの難曲として知られる6度の練習曲に挑戦してみました。 右手は絶え間なく6度で動き回る上に、左手も激しく動き、しかもかなり大きな跳躍があって、1分の間に 難しさがぎゅっと凝縮されています。これを弾いていると、まるで拷問にかけられるような気分です。 ちょっと疲れてきたので、この辺で一度アップしてみます。もっと弾き込めば、完成度、テンポともに 上がりそうな感触はあるので、これを暫定アップとして、引き続き練習を頑張ってみようと思います。 もしよかったら、皆さんも是非、この曲に挑戦してみてください。

エチュード第24番ハ短調Op.25-12:演奏時間 2' 47''

両手がアルペジオと素早いポジション移動で鍵盤を目まぐるしく上下に駆け巡る動きをしますが、 その上下動から生まれる壮大な響きが大海原の波のうねりを連想させることから、 「大洋」というタイトルで知られている曲です。演奏時間的には決して長い曲ではありませんが、 響きが壮大で華やかなため、スケールの大きさを感じさせる曲です。 技術的には、両手ともワンポジションで弾くアルペジオはほとんどがオクターブ以内であるため、 それほど手に大きな緊張を強いる箇所は多くないです(手の大きさはあまり必要ではないです)が、 両手とも同音を5指→1指、あるいは1指→5指への置き換えによる連打を素早く正確に行う必要があります。 この素早く正確なポジション移動がこの曲の弾く上で技術的な課題になります。 曲自体、この絶え間ないポジション移動で成り立っているようなものですが、 このポジション移動は常にミスタッチのリスクがあり、これを正確にできないとミスタッチばかりで曲にならない というケースもありえます。その意味でこの曲はエチュードとしても難易度は決して易しくはないと思います。 練習方法としてはとにかく遅いテンポでミスせずに繰り返し弾いて、その感覚を体で覚えるしかないと思います。 この演奏はやや守りに入っていてテンポは遅めですが、本当はもっと速いテンポの方が この曲の荒々しい激しさや暗い情熱が伝わる演奏になりますよね。

 

ショパン・3つの新練習曲

3つの新練習曲第1番ヘ短調:演奏時間 1' 54''

ショパンのエチュードと言えば、作品10、25の24曲がよく聴かれますが、その他に3つの新練習曲も書いています。 この曲はその中の第1曲で、左4、右3の複合リズムと、音楽的表現が課題の曲です。エチュードとしては 技術的には易しいほうです。

3つの新練習曲第3番ヘ短調:演奏時間 1' 36''

この曲は3つの新練習曲の第3曲(第2曲?)です。左2、右3の複合リズムの曲ですが、 右手のややこしい和音をしっかり譜読みして記憶し再現すること、和声の微妙な変化を感じ取って音楽の流れに 反映させることが大きな課題です。エチュードとしては易しい曲ですが、右手の和音は本当にややこしいですよ。